佐藤優「カラマーゾフで読み解くロシアの論理」 「人間から自由を取り上げなければならない」

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物語では、16世紀スペインのセヴィリア、異端審問のさなかに「彼」が現れます(キリストとは明言されていません)。その正体はすぐ気づかれ、男は集まる群衆に奇跡を起こす。ところが老いた大審問官は彼を逮捕させ、火あぶりを宣告します。

<原著からの引用>
『おまえはすべてを法王にゆだねた。すべてはいまや法王のもとにあるのだから、おまえはもうまったく来てくれなくていい、少なくとも、しかるべきときが来るまでわれわれの邪魔はするな』
『カラマーゾフの兄弟』(光文社古典新訳文庫・2巻より引用[以下同])

ドストエフスキーはここで、「代行システム」について書いています。代行システムとは国家、政治家、官僚なりが民衆をすべて代行していくという考えで、この代行主義が民主主義の本質です。そして、これによって、人間が持つ根源的な自由が失われていると述べています。

自由を欲しがる人間たちに自由を与えたが…

<原著からの引用>
人間は単純で、生まれつき恥知らずときているから、その約束の意味がわからずに、かえって恐れおののくばかりだった。なぜなら人間にとって、人間社会にとって、自由ほど耐えがたいものはいまだかつて何もなかったからだ!

自由を欲しがる人間たちに自由を与えたが、人間は自由をうまく行使することができないじゃないかと言っています。自由ほど耐えがたいものはこれまでなかったと。

<原著からの引用>
こうして、ついに自分から悟るのだ。自由と、地上に十分にゆきわたるパンは、両立しがたいものなのだということを。なぜなら、彼らはたとえ何があろうと、おたがい同士、分け合うということを知らないからだ!

また、食べ物がたくさんあったとしても、人間はたがいに分けあたえることができない。腐らせたとしても全部自分で囲ってしまうのが人間だ。だから強制的に分配しないといけない。自由のままにしておいたら、1人で全部囲ってしまう。こう言っています。

資本主義社会では、資本が自己増殖してどんどん拡大していきます。資本主義は何らかの相当に強い力が働かないとその動きを止めません。強い力とは何かと言えば、国家権力ということになります。

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