世界でも突出した長時間労働、「教員の働く環境」日本と他国の決定的差 国際比較調査から見える日本の「リソース不足」

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日本の教員の業務がかなり多岐にわたっていることが改めてわかるのではないか。

「とくに登下校時間の指導・見守りは、家庭の責任という国が多い。学校徴収金の徴収事務、学校広報なども、他国では教員が担うことはほとんどない」と藤原氏は言う。

「学校の機能を増やせばコストがかかることを認識し、学校機能を拡張するならば、教員の負担増につながらないように、役割分担をすべきです。例えば、フランスの小学校では、休み時間の指導を教員ではなく、学童保育を担当するアニマトゥールという専門職員が担当する場合があります。データの取り方が国によって異なるため必ずしも正確な比較はできませんが、学校職員の配置率も、英国は教員1人当たり1.09人に対して、日本は0.13人と低い。海外ではジョブ型雇用が多いために業務の分担が進んでいる面はありますが、日本も教員によいパフォーマンスを発揮してもらうためには、人を含めて必要なリソースをきちんと投入することを考える必要があるでしょう」

中教審も2019年に、これまで学校・教員が担ってきた業務を3種類に整理し、役割分担の明確化・適正化を促している。例えば、登下校の対応などは「基本的に学校以外が担うべき業務」、休み時間の対応などは「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」、給食時の対応などは「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」に分類している。しかし、教員の役割の削減・分担の取り組みは、あまり進んでいないのが現状だ。

カギは保護者と教員が「相互にリスペクトし合う関係」の構築

こうした中、教員業務の見直しを進めるには、「教員と保護者の関係を、対等なパートナーシップに持っていくことが重要」だと藤原氏は考えている。

「現代の保護者は、社会的支援が十分でない中で子育てをしており、重い教育費だけでなく、子どもがさまざまな問題を抱えた場合への対応といったリスクも負っています。教員だけでなく、保護者も余裕がないのです。保護者同士のつながりも薄れ、そのことによる孤立化が学校への過剰な要求につながり、本来なら家庭や地域でなすべきことまで学校に委ねられてきた側面もあります。保護者への支援や保護者が適切な形で意見を出せる仕組みも考えながら、教員と保護者が対等に協力し合えるようにしないといけません」

藤原氏は、こうした状況から学校と家庭の役割の境界があいまいになっていることが、教員の業務の膨張につながっているとみて、英国の「家庭-学校間合意書」の制度が参考になると話す。

「これは、子ども本人、保護者、学校がそれぞれ果たすべき役割や責任を明確化する合意書です。日本もそういった役割分担が必要です。学校側は説明責任を果たして透明性を持つ努力はしないといけませんが、保護者も学校のリソースや教員の労働実態を理解する必要があるでしょう。相互に理解を深めて信頼し合い、リスペクトし合う関係をつくることが働き方改革のカギになり、ひいては教育の質向上につながると考えます。最近では、夕方は留守電対応にする学校が増えましたが、そうした業務の仕分けや工夫を、学校と保護者が一緒にやっていくことが重要です」

日本でも近年、保護者や地域住民らが学校運営に意見を述べられるコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)が推進されているが、これにより学校と保護者が教員の業務の棚卸しをして成果を出す事例も出てきているという。

教職の魅了向上には「専門職としての自律性向上」も必要

教員の長時間労働は教員採用倍率の低下にもつながっており、質の高い人材の確保、ひいては日本の学校教育の持続可能性を危うくしている。教職の魅力を高めるには「業務の見直しと同時に、専門職としての教員の自律性向上が欠かせません。それは教員のパフォーマンスを高めることにもつながります」と藤原氏は言い、こう続ける。

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