「採用倍率」が低下、進行する「学生の教職離れ」
全国に先駆けて、小中学校の全学年を対象に少人数学級を独自に実現したことで知られる山形県。2002年度から順次開始し、33人以下の学級編制を11年度に完了した。「教育山形『さんさん』プラン」と称し、特別支援学級の編制基準を8人から6人へと引き下げるほか、低学年副担任制や、退職教員などを小中学校に配置して授業改善を図る「教育マイスター制度」なども展開してきた。
「県内の教育課題などを踏まえつつ、きめ細かな指導の下、生活と学習が一体となった『わかる授業』や、『いじめや不登校のない楽しい学校』を目指して推進してきました」(県教委担当者)
プラン導入後しばらくは不登校児童生徒数(30日以上欠席)の出現率が低下するなど、少人数学級の成功事例として全国的に注目された。21年度の学校アンケートでも「主体的に学習に取り組ませる指導に効果がある、または効果が期待できる」という質問に対して「そう思う」との回答が7割を超えるなど好評で、「とくに授業改善に取り組む学校が増えたことは大きな成果」と県教委担当者は言う。
そのようにさまざまな教育施策を打ってきた県教委だが、現在、喫緊の課題となっているのが教員の働き方改革だ。県教委は22年度末までに複数月平均の超過勤務時間(在校等時間における超過勤務時間)が「過労死ライン」の月80時間を超える教員数0人を目指して取り組んできた。
しかし、22年度上期の6カ月平均で残業80時間超の教員数は小学校8人(前年度比28%減)、中学校98人(同34%減)、高校156人(同11%減)と前年度比では減少したものの、目標値の40%減までは届かなかった。また、時間外在校等時間(1人1カ月平均)は小学校37時間(同2%増)、中学校47時間56分(同0.3%減)、高校44時間26分(同3%減)と、全校種において下げ止まりの状態で、中でも小学校は40分近く増加。背景には、探究的で、創造性に富む資質・能力を身に付けさせる指導などが求められる一方、部活動や児童生徒とその保護者への対応など、教育課題の多様化や複雑化があるという。
さらに長時間勤務問題によるイメージの低下もあったのか、学生の「教職離れ」が進行。山形県の教員全体の採用倍率(志願者数/募集人数)は13年の7.2倍から22年度には2.5倍になり、とくに小学校は5.2倍から1.5倍まで低下した。
そこで県は23年度予算で、教員の働き方改革の施策として6億9051万円を計上。うち約3分の1と大きな割合を占める2億2899万円を充てたのが、新卒の小学校教員の育成支援である。
若手教員の「精神疾患を理由とした退職」も増加
県教委がとくに危機感を募らせているのが若手教員の離職者の増加だ。県の採用5年目までの若手教員退職者数は2017年度の13人から21年度は30人と2倍以上に増加した。中でも精神疾患を理由とした退職は17年度の2人から20年度、21年度はそれぞれ7人。退職者に占める割合も17年度の15%から20年度は32%、21年度も23%と増加傾向にある。
この事態に、大学を卒業したてで経験の浅い教員が学級担任となり、授業から生活指導、保護者対応まですべてを1人で担うのは負担が大きすぎるのではないかという認識が浮上。そこで、大卒新採教員については、採用1年目の負担を軽減して育成を図るため、学校規模にはよるものの、学級担任を持たせずに「教科担任兼学級副担任」にすることにした。
どの教科を担当するかは各学校に委ねるが、特定教科の担当に絞ることで教材研究や授業準備の時間を十分に確保するとともに、先輩教員の下で学級経営を学んでもらうことが主な狙いとなる。
教科担任兼学級副担任の導入は、県内に223校ある公立小学校のうち、一定規模以上の39校で実施する。「5年生または6年生が3学級以上ある規模の小学校を対象としており、新採教員の教科担任としての授業時間数は週17コマを目安に設定しています」と県教委担当者は説明する。
そのほかの規模の小学校においては、新採教員でも学級担任を受け持つことになるため、再任用短時間勤務職員や非常勤講師などを支援員として配置することで空きコマを生み出し、新採教員の負担軽減を目指す。こうした仕組みは、「知る限り、全国初ではないか」と県教委は話す。
支援員の確保に向けては、退職者に積極的に声をかけるほか、教員免許を持っているが教職に就いていない人材を掘り起こすためのペーパーティーチャー向け説明会も実施。今年2月に開催した説明会では「育児が一段落したので再び学校と関わりを持ちたい人」など約70人の参加があった。ちなみに「教員免許はないが子どもと関わる仕事」を希望する人には、プリントの印刷や採点補助などを行う教員業務支援員(スクール・サポート・スタッフ)などの仕事を紹介するなど、外部人材の活用によって教員が指導や授業に集中できる環境整備を進めている。
「デジタル採点サービス」の導入など多角的に負担軽減
また、先行して21年12月には若手教員育成ガイドブック『若手教員とともに育つ』を作成。それまでも新採教員に対してメンター教員をつけていたが、「忙しそうなメンター教員に相談を持ちかけづらい」という声などもあり、複数人のメンターがチームで対応する仕組みを整え、22年度から新採教員一人ひとりに「困り感」をヒアリングする取り組みも進めている。23年度もこの方針を継続し、悩みを相談しやすい環境を整えていく。
山形県では、こうした新採教員の育成支援のほかにも、多角的に教員の負担軽減に取り組む方針だ。県立高校では、2022年度に15~20校で試行していたデジタル採点サービスを、23年度から全42校で実施する予算を確保。設問ごとの解答を一覧化して確認ができ、点数を自動集計するサービスで、「採点ミスや集計ミスが減るほか、観点別評価の分析も速くなると好評だった」(県教委担当者)ことから、全校展開に踏み切った。ウェブで出退勤を管理できるシステムも県内全市町村の学校に導入されたので、勤務時間の管理も引き続き徹底。そのほか、小中学校における教員業務支援員の全校配置や、中学校の部活動の地域移行も推進していく。
県教委担当者は「一人ひとりの声を聞きながら大卒新採教員の育成環境を整え、長時間労働問題を解消していくことで教職を魅力的なものとし、教員志望者の増加につなげていきたい」と話している。
(文:新木洋光、注記のない写真:ふじよ/PIXTA)