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オフィスで携帯電話が鳴った。取ると、聞き慣れない声がする。
「佐藤です」
え、佐藤さん? どこの?
「ケニアの佐藤です」
そうか。アフリカで成功した日本人がいると聞いて、取材を申し込むメールを送っていたんだ。
「いや、取材の件なんですけどね、お受けしようと思って」
「ありがとうございます」
「じゃあ、あさって来て下さい」
「え、あさって……ケニアですよね」
「そう」
急いでパソコンで検索する。
「えーと、ビザが必要ですよね。あと黄熱病の予防接種も……」
「いやあ、大丈夫だと思うなあ」
「大丈夫って?」
「空港に来ちゃえば、追い返すことはないですよ」
「……もし、ダメって言われちゃったら」
「そんなことは、言わないと思うなあ」
この時、すでに私は、彼が普通の経営者でないことを感じ取った。何せ、大使館サイトで入国にビザや書類が必要と明記しているのに「いいんじゃないの。来ちゃえば、入れてくれるよ」と言うのである。
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