自由進度学習で注目の山吹小、イエナプラン教育の「いいとこ取り」の真意 自校に即した個別最適な学び・協働的な学びを
保護者も、児童の家庭学習について「計画的に勉強している」「パソコンで遊んでいるのかと思ったら調べものをしていた」と変化を感じているそうだ。
「よりよいインストラクションや、進度が速い子の知的好奇心も満たす探究学習についての実践研究を深め、さらなる学びの充実を図りたい。同じエリアの小中学校で個別最適な学びのコンセプトを共有して取り組む計画も進んでいます」と、山内氏は今後の展望を語る。
重要なのは「共通認識」、実現の手法は多様でよい
2019年度から独自にイエナプランのコンセプトを取り入れてきた山吹小。その実践を後押ししたのが、名古屋市教育委員会(以下、市教委)が「ナゴヤ・スクール・イノベーション事業」の一環として21年度に実施した「マッチングプロジェクト」だ。民間企業などと連携した実践研究を希望する140校以上の応募の中から、山吹小は6つのプロジェクトのうちの1つに選ばれ、日本イエナプラン教育協会と連携して教員研修を実施。YSTも全学年で展開することになった。ただ、具体的な活動内容や進め方は教員自らが考える必要があり、その話し合いには多くの時間を割いたという。
「当初は教員の負担が増し、導入の目的から理解を求める必要がありました。しかし、いざ始めてみると、子どもたちが目を輝かせて学ぶようになり、教員のモチベーションが向上していきました」
現在は、新任や転任の教員には時間をかけて研修を行い、各種資料は校内で共有することで教員の負担軽減を図っている。しかし、体験学習が多いふれあい活動に関しては教員の負担が大きいため、持続可能な働き方とのバランスを模索しているという。
山吹小の公開授業には全国から毎回100人以上の参加がある。市内でも1単元内、1時間内といった範囲で自由進度学習を取り入れる学校が増えてきているという。しかし、市教委首席指導主事の横井裕人氏は「市内の全公立校に山吹小と同様の取り組みを一律に求める意図はない」と話し、こう続ける。

名古屋市教育委員会事務局 新しい学校づくり推進部 新しい学校づくり推進室 首席指導主事
(写真:横井裕人氏提供)
「市の学びの方針『ナゴヤ学びのコンパス 中間案』では、目指したい子どもの姿を『ゆるやかな協働性の中で自律して学び続ける』としています。この姿を実現する手法は1つに限定されるものではありません。各学校において教職員が対話を重ね、自校に即した実践を進めていけるように支援したいと考えています」(横井氏)
山内氏も、授業改善に当たっては「まず手法ありき」の発想に陥らないようにする必要があると指摘し、「重要なのは、なぜ新しい学びを取り入れる必要があるのかを教員一人ひとりが理解し、共通認識を持つこと。『個別最適な学び』や『協働的な学び』を実現する手法は、多様でよいのです」と言う。
自校にとって必要なことは何かを考え、できることを、できるところから始めていく。山内氏の言う「いいとこ取り」の精神で、柔軟な形で授業改善を進めていくことが、新しい学びを実現する秘訣なのかもしれない。
(文:安永美穂、注記のない写真:山吹小学校提供)
東洋経済education × ICT編集部
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