公立初「イエナプラン教育校」に移住者も集う訳 福山市立常石小「異年齢集団教育」の成果

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ドイツで生まれ、オランダで普及した「イエナプラン」。2019年には、日本でも初のイエナプランスクール認定校として私立の大日向小学校(長野県佐久穂町)が開校し、話題となった。そして今、公立初のイエナプラン教育実践校として注目されている学校をご存じだろうか。広島県福山市が22年春に開校を目指す小学校(名称未定)だ。福山市立常石小学校(福山市沼隈町)の施設を活用して開校するため現在は移行期間となっており、すでにイエナプラン教育をスタートしている。いったい、どのような教育活動を行っているのか。

学区外からも応募が集中

オルタナティブ教育の1つとして知られる「イエナプラン」。ドイツの教育学者であるペーター・ペーターセンが創始し、1960年代ごろからオランダで広まった。現在オランダでは、イエナプラン教育を展開する小学校が200校以上あるという。

イエナプランは、独自の教育コンセプト「20の原則」の下、異年齢集団で活動するのが大きな特徴だ。対話・遊び・仕事(学習)・催し(行事)という4つの活動を通じて、1人ひとりの個性を尊重しながら自律と共生を学んでいく。近年、日本でも活動を取り入れる学校や塾があり、教育に関心の高い保護者からも期待を集めている。

こうした中、日本でイエナプランスクール認定校として2校目、公立では初となる予定であるのが、2022年春に福山市に創設される小学校だ。学校再編で閉校予定の同市立常石小学校(以下、常石小)の施設を活用する形で開校する。そのため、20年度と21年度を移行期間としており、すでに同校の低学年(1~3年生)はすべての教育活動を、高学年(4~6年生)は一部の教育活動を異年齢集団で行っている。

低学年はすべての教育活動を異年齢集団で実施。現在、約20名×2クラス

21年度の新低学年の受け入れに当たって20年10月に行った説明会には、延べ202名が参加。市内全域の在住者が対象だが、移住者も受け入れており、東京都や埼玉県などから参加した保護者もいた。入学が決まった約20名のうち半分は市外からの応募だったといい、注目の高さがうかがえる。

福山市が目指す教育に一致した

なぜ常石小は、イエナプラン教育を軸に据えることになったのか。同市教育委員会事務局 学校教育部学びづくり課の課長を務める井上博貴氏は「実は当初からイエナプラン教育をやりたかったわけではない」と説明する。

16年、同市は「変化の激しい社会をたくましく生き抜く子ども」の育成を目指す「福山100NEN教育」を宣言している。その一環で、認知科学者の協力を得て2つの小学校の1年生を1年間毎日観察し、言葉や数の習得過程を研究した。すると、「1人ひとりの学ぶスピードや理解度が異なることが改めて確認された」(井上氏)という。

「この調査結果を受けて従来の一斉授業やテストのあり方を見直すことにしました。子ども主体の学びを目指し、18年から7つのパイロット校を中心に各教科や総合的な学習の時間に異年齢での学びを実施し始めたのです」(井上氏)

海と造船所の近くに立地する常石小学校

そんな中、同市教育長の三好雅章氏は、広島県教育長の平川理恵氏が市町教育長に呼びかけたオランダ視察に同行し、イエナプランと出合う。同市が目指す学びとぴったり一致していると感じたそうだ。さらに地元企業の常石グループが新しい学校づくりへの協力を申し出たことも重なり、常石小の施設を活用してイエナプラン校を創設するに至ったという。

イエナプラン教育「1日の流れ」

常石小では、前述した対話・遊び・仕事(学習)・催し(行事)という4つの基本活動を基に時間割を組んでいる。校長の甲斐和子氏は、「区切った時間はあくまで目安。チャイムもなく、子どもたちの様子に合わせて活動を進めます」と説明する。

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