メガバンクが法人オーナーに的を絞る理由 「事業承継」に意外な商機あり

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週刊東洋経済2015年4月18日号(4月13日発売)の特集は『金融異変』です。世界経済を覆い尽くす低金利にあえぐ金融機関の実態と展望を全38ページで追いました。 購入はこちら

実は信用金庫の担当者は、この塾経営者のところへ足繁く通っており、海外旅行に連れて行ったりもしていた。みずほの担当者は「なぜだろう?」と思っていたが、信金はこの経営者が莫大な資産を持っていることをわかっていたのだ。

みずほが地元の名士へのアプローチを強化しているのは、こうした経験からだ。営業店の周辺で開かれる商工会議所の集まりや、地元の祭などの行事に積極的に顔を出すようにし、地場の経済圏を支えているのはどのような人か知りながら営業することを始めている。

みずほは、グループ傘下に信託銀行や証券があり、銀行、信託、証券が一体になって、事業承継という課題に取り組むことができる。信託があることで、不動産も含めた提案ができる。相続税の評価額は、通常、現金より不動産のほうが低くなるので、豊富な現金を持っているような高齢のオーナーには賃貸アパートなどの収益物件を紹介し、相続税評価額を下げるように提案する。

また、証券があることで、事業承継の選択肢が広がる。IPO(株式公開)や事業売却、M&A(企業の合併・買収)などを幅広く提案できる。事業承継は、オーナーの考え方や資産状況、承継する側の人数やかかわる人たちの考え方や状況などが、1件1件異なる。さまざまな解決手法を持っていることが強みのひとつになる。

部店長重点深耕先の収益は2年で50億円増

また、承継ニーズのありそうな顧客を、営業拠点の支店長や部長がそれぞれ30人程度リストアップし、「部店長重点深耕先」とし、営業を強化している。そうした「重点先から上がる収益は、この2年で50億円ほど増えた」(みずほ銀行ウェルスマーケティング部の今野隆幸次長)という。投資信託や保険といった資産運用商品の販売手数料や、承継にかかわる貸し出しに伴う収益が増えている。

みずほ銀行は4月1日、執行役員の所管が変わった。これまで、オーナー向け営業を担当するリテールバンキングユニットと、中堅・中小企業向け営業を担当する事業法人ユニットは、それぞれ別の常務執行役員がユニット長となっていた。これを、4月1日からは1人の常務執行役員が両方のユニット長を兼務することになった。

リテールバンキングユニットは、主に年商50億円未満の法人のオーナーに営業をしてきたが、4月からは事業法人ユニットが担当する年商50億円以上の中堅企業のオーナーも営業対象とする。法人の営業担当者が、オーナーの個人向け金融サービスの相談に乗って営業をすれば、評価したり、表彰したりする制度も設けた。みずほの法人オーナー向け資産承継ビジネスは、2015年度に一段と収益が拡大しそうだ。

福田 淳 東洋経済 記者

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ふくだ じゅん / Jun Fukuda

『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などを経て編集局記者。

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