そんなキル・ボクスンが「育児より殺人のほうが単純」と本心を言葉にするのを起点に流れが変わっていきます。暗殺請負組織との契約更新を目前に控え、足を洗おうとするキル・ボクスンに絶体絶命の危機が襲い掛かる話が展開されていきます。すべての選択は成長した娘と向き合うため。あくまでも仕事の内容は殺人ですが、思春期の子を持つワーキングマザーとしてみると、わかりみが増す場面は多いです。
キアヌ・リーブス映画の韓国版のよう
2時間19分で話が完結する映画ですから、キル・ボクスンを取り巻く登場人物の構図はシンプル。母娘以外に大きくは2つある三角関係を押さえれば十分です。1つは大御所俳優のソル・ギョング演じる暗殺請負業者のボスと、脂の乗った40代俳優ク・ギョファン演じる仲間の殺し屋とキル・ボクスンとの恋の三角関係です。
もう1つに、スタイル抜群のキム・シア演じるボスの妹とキル・ボクスンがボスとの関係性を巡って緊張が走る三角関係があります。
それぞれ主要キャラクターが殺し屋であっても組織人として悩んだり、恋にのめり込んだり、感情を露わにするのは韓国作品らしい部分です。
ストーリーの展開も登場人物も王道から踏み外さず、エンターテインメント感を満喫できる作品であることは間違いなく、タレント事務所を彷彿とさせる「暗殺請負業者MKエンターテインメント」という組織名で殺しの任務を「ショー」、殺人計画を「台本」などと呼ぶ設定はオリジナリティがあります。
ただし、殺人請負組織に所属する主人公の二重生活を描くという基本設定は2014年からシリーズ公開が続くキアヌ・リーブス主演映画『ジョン・ウィック』とはっきり言って被ります。リメイク作品ではない限り、突っ込まざるを得ません。
この気になる真相について、公開前の3月22日にソウルで開催された記者会見で脚本も手掛けた監督のビョン・ソンヒョン本人がびっくりするほど堂々と答えていました。
「『ジョン・ウィック』シリーズに何か新しいものを加えたいと思った」と切り出し、「タランティーノの大ファンなので、タランティーノの要素も少し入っています」と付け加え、強かにインスパイアの範疇にあることを印象付けていました。余裕さえ感じられ、監督としてはまだ若手の1980年生まれのクリエイターながら頭角を現していることが妙に納得させられもします。
突っ込みどころは、冒頭シーンにもあります。Netflix超ヒットシリーズ「ナルコの神」などを代表作に持つ演技派俳優ファン・ジョンミンが特別出演しているのですが、台詞はすべて日本語。しかも練習仕立ての関西弁です。その違和感ゆえに気になって、せっかくの魅せる殺陣のシーンが集中できないほど。なぜ在日韓国人ヤクザ役の設定なのか、素朴な疑問が生まれます。
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