管理職による“隠蔽”をなくすために
こうした問題が起こったとき、どのような対応がなされるべきなのか。現在は、メールや専用ダイヤルでハラスメントの相談窓口を設けたり、パワハラ防止マニュアルを作成したり、教職員にアンケート調査を行うなどして実態把握に努める教育委員会もある。
だが、若井さんは自身の経験を振り返って、そこには「学校の隠蔽体質」が横たわっていると指摘する。いくらパワハラ防止措置があっても、隠蔽されてしまっては意味をなさない。
「つらい思いをしているのに、その声をすくい上げてもらえない。自殺するほど追い詰められても、その責任を取るべき人間に責任が問われないことが問題です」
管理職が事実をねじ曲げれば、教育委員会がそれを信用する限り問題は解決されない。“お上” である教育委員会には、管理職の報告を鵜呑みにせず、直接現場を見てほしいのだという。
「自分の在任中に問題が起こったら、評価が下がる――。そう思うからこそ、隠蔽が横行します。会社でも学校でも、問題は小さいうちに対処したほうが、傷が浅く済むはずです。教育委員会には、問題を起こさない先生ではなく、問題を誠実かつ適切に対処できる先生こそ評価してほしい。それによって管理職の意識が変わることを願っています」
現場の教員の過剰労働も、こうした問題の原因になりうる。
「小規模校なら、お互いの状況が見えやすくフォローし合うことができます。しかし、事件のあった学校は違った。多忙すぎて他人の世話までしていられない、という雰囲気でした。人数の都合で、専門外の科目も教えなければならなかったし、担任の仕事に加えて部活動の指導もありました。みんな自分のことで手いっぱいでしたから、余計なトラブルは避けたいし関わりたくないという気持ちだったのでしょう」
教育職員の精神疾患による病気休職者は、ここ約10年で5000人以上にまで推移し、21年度は5897人と過去最多になった。大きな要因の1つが長時間労働だと考えられているが、こうした学校現場の余裕のなさは、さまざまな事態の引き金になる可能性がある。
1つのミスで“即アウト”になってしまうのが今の学校の恐ろしさだ、と若井さんはつぶやく。「人は間違えるものです。大事なのは、その問題を共有し、どう変えていくか。あの事件も、それを考えていれば、違う結果が導けたでしょう」。そう続いた言葉の意味を、重く受け止めたい。
(文:藤堂真衣、注記のない写真:Graphs / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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