黒い油の海に沈んだ船、国の事故調査への疑問 『黒い海』著者の伊澤理江氏に聞く

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『黒い海 船は突然、深海へ消えた』著者の伊澤理江氏
伊澤理江(いざわ・りえ)/ジャーナリスト。1979年生まれ。英ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。英国の新聞社、PR会社などを経て、フリージャーナリストに。調査報道グループ「フロントラインプレス」所属。主にウェブメディアでルポやノンフィクションを執筆してきた。(撮影:尾形文繁)
太平洋上で碇泊していた中型漁船「第58寿和(すわ)丸」が、突如、大きな2度の衝撃を受け沈没した。1度目は「ドーン」、2度目は「ドス」「バキッ」という構造物が壊れるような音がしたという。乗組員20人のうち17人が犠牲になった。2008年6月のことだ。それから11年後、著者は偶然に事故を知った。3年にわたる100人近くへの丹念な取材から見えてきたものとは──。
黒い海 船は突然、深海へ消えた
『黒い海 船は突然、深海へ消えた』(伊澤理江 著/講談社/1980円/304ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

──不可解な事故です。

船が沈没したのは、千葉の犬吠埼から東へ350キロメートルの沖合。朝、海はシケていました。寿和丸は、いかりの一種であるパラシュートアンカーを使って碇泊(パラ泊)し、天候の回復を待っていました。昼ごろには海況は穏やかになりつつあり、いつ漁を始めてもおかしくない、そんな海でした。

生存者の証言によると、船の右前方に激しい2度の衝撃があったのが午後1時すぎ。135トン、全長48メートルの船は衝撃からわずか1〜2分で転覆し、1時間足らずで沈没しました。嵐でもなく、安全性が高いパラ泊をしていたのにです。3人の生存者は黒い油でドロドロになった海を泳ぎ、何とか命を取り留めました。

証言と真っ向から食い違う「油」

──運輸安全委員会の調査報告書では「原因は波」とされました。

報告書が示した可能性は、漁具の積み方が悪く右に傾いていた船に、右側から大波が連続して打ち込み、バランスを崩して転覆したというものです。では波説は、本当に蓋然性が高いのか。

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