偏差値40台から筑波大も、大学進学率10%上げた都立王子総合高校の探究学習 見逃したくない「生徒が最も成長するとき」とは
生徒が最も伸びるのは、失敗した人を手助けするとき
実は望月氏は、これからは管理職の方向へ舵を切ることに決めている。生徒たちの変化を見つめる中で、教員自身も迷い、失敗することができる環境づくりの必要性を感じたからだ。「失敗」と「迷い」。この2つは、望月氏が探究学習においても重視するキーワードだ。
「探究で大切なのは、生徒をしっかり迷わせてあげること。そのプロセスこそが探究に欠かせない『冒険』であり、冒険には失敗もつきものです。それに生徒が最も伸びるのは、人を手助けするときなんです」
私もよく失敗するのですが、と前置きして、望月氏はこんな例を挙げた。
「過去にシェフを学校に招いて料理をしてもらう授業をした際、何とシェフが仕込んだお肉を家に忘れて、授業の途中で取りに帰ってしまったことがありました。このままでは時間内に料理ができないという事態に、生徒たちは率先してシェフを手伝い、料理を完成させました。問題なく進む授業より、きっと得るものが多かったと思います」
大正大学での盆踊りも同様だった。当日は予想外のことがいくつも起きた。想像以上の大盛況にボールの在庫がなくなり、生徒は教員の助けを借りて買い出しに行く判断をした。人手も足りず、店番の生徒たちがそれぞれ友達に応援要請をして乗り切った。何より、こんなにたくさんの子どもたちが、こんなに喜んでくれるなんて――。予定調和ではない出来事の中で互いに助け合った経験が、やがて彼らが対応できることの幅をさらに広くするはずだ。
「評価だって、肩ひじ張らなくて大丈夫。私は生徒同士でコメントを使って交流し合う方法も取り入れてきましたが、大人にはわからない流行を取り入れた工夫など、生徒同士だからきちんと気づいて評価してくれるのです。教員視点という一方向からだけの評価よりも、こうした多角的な評価が一人ひとりに響いているのを感じました」
こうした信念があればこそ、望月氏は「探究に手間はかからない」と断言できるのだろう。教員にできることは多くないと言うが、もちろん教員がすべきこともあると言う。
「グループをつくる際には、いわゆるスクールカーストやグループの壁を壊し、生徒自身がやりたいことを主軸にしてメンバー構成をする必要があります。これによってクラスメートの新たな一面を知ったり、自分でも気づかなかった得意分野を見つけたりという効果も。周りに合わせることが最適解ではないと実感してほしいと思います」
教員自身も失敗を恐れず、その経験を戦略的に生かしてほしいと続ける望月氏。だが多くの教員は、自分たちには失敗が許されないと考えている、と指摘する。
「探究の時間では未経験のことを求められ、先生たちもきっと不安で怖いのだと思います。頑張って研究している方たちを否定する意図はもちろんありません。でも大切なのは教員がうまくやることではないし、むしろ教員の敷いたレールの上を歩かせることで、生徒の成長を妨げることもあるのではないでしょうか。私たち大人が挑戦し、失敗しても立ち上がる背中を見せることが、子どもたちも生きやすい社会の幅を保つことになると考えています」
(文:鈴木絢子、注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら