ホテルの宿泊客数がほぼコロナ前の水準に戻る一方、ホテル清掃員など宿泊業従事者はコロナ前より2割近く減少。受け入れ体制を整えられなければ、復活機運を逃してしまうことになりかねない。
「12時から23時まで、たった1人でフロントなどの業務をこなしている。苦情などトラブルがあると、即アウト。電話がかかってきても出られないなど、宿泊客への通常対応ができなくなる」
全国展開する有名ビジネスホテルチェーンで勤務するA氏は、こう語る。A氏が勤務する店舗の従業員はA氏と数名のアルバイトのみ。アルバイトが体調不良などで休むと、「10日以上、連続して勤務することもある」(A氏)という。
2020年初頭のコロナ発生によって、大打撃を受けたホテル業界。2022年後半から全国旅行支援策や水際対策緩和などで、客数は徐々にコロナ前の水準に近付きつつある。だが、ここにきてホテル業界は、復活の道筋を辿るうえでの課題が顕在化している。人手不足の問題だ。
観光庁が発表している宿泊旅行統計調査によれば、2022年12月は前年同月比19.7%増の4690万人泊(宿泊人数×宿泊日数)だった。コロナ前の2019年12月と比べても0.5%減と、ほぼコロナ前の水準まで回復してきた。
一方で、宿泊業の従事者は大幅に減少した。総務省の労働力調査によれば、2022年の宿泊業従事者は53万人で、コロナ前2019年の65万人から2割近く減少した。
高級旅館も人手不足に悩む実情
人手不足で悩んでいるのは、冒頭に記述したようなビジネスホテルだけではない。
西日本に構える高級旅館の社長は、「企業主催の大型宴会などの依頼をいただくが、人手不足で対応することができない」と明かす。都内の名門ホテルの幹部も、「コロナ発生以降は、幹部が現場に出て食器清掃や接客業務などの対応をすることがある」と打ち明ける。
足元の人手不足の背景には、コロナ禍で実施してきたホテル側のリストラがある。中小規模のホテルだけでなく、老舗の大手ホテルでさえ、コロナ禍では新規採用の抑制や人員削減を行った。
「ホテル椿山荘東京」(東京都文京区)などを所有している藤田観光は、売り上げの急減により2020年末に債務超過寸前にまで追い込まれた。
同社は運転資金の確保と経営のスリム化を目的に、「太閤園」(大阪市)の売却や第三者割当増資などを断行。思い切ったリストラにより、同社の従業員数については、2019年の1700人から2021年には1158人と、31%も減少した。
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