知らないと出遅れる「ChatGPT」台頭のインパクト AIの最前線を知り尽くす東大の松尾豊教授に聞く

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――2020年にGPT-3が出てきたときに、松尾さんは「新たなイノベーションが起こる」と言及されています。しかし、2022年にChatGPTが出てきたことで、一般的にはそのすごさがようやく知られ始めた段階とも言えませんか。

そうだと思います。でも、特に日本はにピンときてないんです。今後、GPTがオフィスとかパワーポイントとかの製品に活用されたり、海外のスタートアップなどがこの技術を使ったサービスをどんどん展開しはじめて、ようやく「こういうことだったのか」と気づく感じかもしれません。

言語処理で相当能力が高い、普通の人間よりも能力が高いかもしれない技術が現れたというだけで、とてつもないことなんですが。

――驚異的な変化だというムードがない、と。

AI関係のスタートアップとか技術者などはこの変化をわかってますけど、大企業でわかっているところはほとんどないと思います。メディアでも、少しずつ記事が出はじめたくらいですし。

つまり今、竜虎の戦いが始まっているのだということが十分認識されていないわけです。日本企業は危機感を持ったほうがいいし、今後のために多少なりとも手を打ったほうがいい。何が起こっているのかすらわからずに負けてしまうのを避けるためにも。

欠点を挙げるよりも「活用」に目を向けるべき

――しかし、メディアの中では「ChatGPTはそれほど大した技術ではないのでは」と書くところもあり、いろいろな見方が錯綜しているように思えます。

ChatGPTは間違ったことをたまに言うとか、そうした指摘は「粗探し」のようなものです。もちろんChatGPTには技術的な課題や限界もいろいろとあります。しかし、それらは今後、徐々に解決されるでしょう。また違った革命的な技術が出てくるかもしれません。ただ、それを待たなくとも今のChatGPTの技術のままだとしても、これをもっと幅広い用途に使ったらいろんなことができるようになるし、今後2、3年のうちに実際にそれが起きていくわけです。

初期のインターネットも、スピードが遅いとかいくらでも欠点を挙げられた。でも、できないことばかり言うより、新たな技術でマーケットがどう変わるか、何ができるかを考えたほうがいい。

ーー日本企業はどう動くべきだと思いますか。

マイクロソフトがオープンAIに数十億ドルを投資するのは、世界最高の会社を買収するようなものだとも言えます。でも、自前でGPT-3レベルのことをやろうと思ったら、おそらくサーバー代で数百億円ぐらいなんです。今だともっと安いかもしれない。

数百億円を投資できる日本の会社はそこそこあるはずです。そういうところが、自分たちの事業につなげてどう儲けるかを考えて投資をすればいい。単に今の大きな変化をわかってないと、後々になって「ものすごく安い金額の話をしていたよね」と振り返ることになるんです。

AIのいい人材を集めるのは大変ですが、数百億円レベルの投資で、(マイクロソフトのような)第1集団の次の第2集団の先頭くらいに食い込めるならば、その“チケット”を買ったほうがいいのではないかと。

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