知らないと出遅れる「ChatGPT」台頭のインパクト AIの最前線を知り尽くす東大の松尾豊教授に聞く

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ほかにも日程調整とか、ある人の要望を聞き取って、また別の人との予定を合わすということもできるかもしれない。今人間が行っている業務の大部分が、ほかの人とのコミュニケーションや調整だといえます。その相当部分をChatGPTなどの技術でできるようになるということは、とてつもなく巨大なマーケットです。

この言語技術は、すべてのホワイトカラーの人たちに影響が及ぶので、インターネットの黎明期かそれ以上に大きなインパクトだと思います。

――今、言語処理技術の劇的な進化が起きているわけですね。

そうです。2017年の「トランスフォーマー」というモデルがベースになっています。パラメータ数を増やすと賢くなる「スケール則」が2020年にわかったので、ひたすら巨大にしている。結果、GPT-3のレベルでこれだけのことができてしまうわけです。

当然、さらに進化した「GPT-4」のほうがすごいわけで、それをベースにChatGPTのような会話をしたらもうどんなレベルまでいきますかという話です。パラメーター数を増やせば機械が賢くなるということは、際限がない。だから「グーグルvs.マイクロソフト・オープンAI」という戦いが起きている。要は、ビッグテック同士の覇権争いですよね。

――現在、AIでは言語処理の進化が最も注目すべきテーマですか?

今これが一番大きなテーマでしょう。もちろん弱点はたくさんありますが、相当なところまで人間の知能に近づいています。人間の脳はだいたい200兆シナプス(神経細胞間の接合部)ありますが、今度のGPT-4がそのくらいのパラメーター数に近づくかもしれません。機械は忘れないし、データ量も多いとなれば、いくらでも進化します。

「竜虎の戦い」が始まっている

――だからこそ、マイクロソフトがオープンAIに数十億ドルという巨額の資金を投じる展開になるわけですね。

あれはほとんど「時間買い」です。マイクロソフトもグーグルもやろうと思えば自分たちで作れるんだけど、オープンAIのほうが先に行ってるので。時間買いとしてそれくらいのバリュエーションなんですよ。でも、このマーケットのポテンシャルはそれどころじゃない。

――マイクロソフトはGPTで検索エンジンを変えるつもりでしょうか。

検索エンジンはもちろん変わりますが、オフィスのワードとかパワーポイントが今のような作業ではなくなるでしょう。マイクロソフトの製品も一新されるだろうし、ほとんどそれなしには仕事ができなくなります。インパクトが大きいのはこちらでしょう。

今、会社の役員や部長は「こんな感じ」「これは違う」と指示して部下に書類を作成してもらっている。でもGPTを活用した新しいマイクロソフトの製品が出てきて、指示をしただけでバッとまとまったパワーポイントの資料が作成されるとしたらどうですか。一から作っていたら勝てないですよね。もうみんな新しい製品を使うしかないわけです。

――グーグルも別の大規模言語モデルを発表しています。マイクロソフトがオープンAIに資金をつぎこみ、GPTをどんどん進化させることで勝者になれるのでしょうか。

まだそれはわからないですが、ものすごいレベルの戦いが始まっています。

グーグルのような世界一のテックカンパニーが強い危機感を持ち、マイクロソフトも全力でここに取り組もうとしている。いわば「竜虎の戦い」です。とてつもなく大きなマーケットが出現したので、ほかのビッグテックもスタートアップもこの分野を狙っています。

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