高校新学習指導要領「総合的な探究の時間」 、3観点に即した評価のポイント 長期的な視点で指導や授業と評価を一体化へ
今日では、教科教育においても探究の手法が求められている。実験やプレゼンテーション、ディベートといった多彩なスキルを求める「パフォーマンス課題」は、生徒の関心を引きつけ、学びを定着させる効果も大きい。これらの教科ごとの探究では教員が課題を示すが、「総合的な探究の時間」では、教員は課題を設定するための環境づくりをするのみ。課題を見つけ、設定するのは生徒自身だ。この差をしっかりと意識したうえで、だが教科での探究と「総合的な探究の時間」を切り離すことなく、相互環流させることが重要だといえる。
「目標」を明確に、学校ごとの個性あふれる取り組みを
「総合的な探究の時間」では、西岡氏はまず目指す「目標」を明確にし、カリキュラムを確立すべきだと語る。基盤となる目標設定があやふやだと、その上に組み立てるカリキュラムや取り組み内容もぶれやすくなってしまうからだ。実際に、西岡氏が探究の指導について相談を受ける場合、よく聞くと目標自体がはっきりしないケースが多いという。
西岡氏はまた、近年注目される「ルーブリック」の導入には慎重になってほしいと語る。これは学習目標への達成度を判断するための評価基準表のことだ。数値化できないさまざまな観点・特徴を言語化・明文化することで、教員間で評価基準を共有することもできる。だが質の悪いルーブリックを用いると、「教員の業務が煩雑になってしまうだけ」だと言う。
「子どもたちの真に自律的な探究活動には正解もないし、どんな結論を迎えるかわからないため、評価がグラデーションになる。だから、ルーブリックのような評価基準表が適しているのです。しかし目標や指導の転換が実現する前に、単なる評価基準としてルーブリックを作ったり、異なる取り組みを行う学校の基準を借りてきたりしても意味がありません。探究活動の評価において、ルーブリックは必須ではないのです」
では、カリキュラムを確立するための「目標」はどう定めればいいのだろうか。
「この学校でいちばん取り組みたいことは何か、先生たちがこれまで『もっとやりたい』と思っておられたことは何か。また、どんなふうになってほしいかという生徒の姿をイメージすることも欠かせません。それぞれの学校で探究学習の内容は違っていいし、教員や地域によるカラーが強く表れていていいのです」
西岡氏は地域色と個性豊かな探究の実例を2つ挙げた。1つ目は兵庫県立尼崎小田高等学校普通科(看護・医療・健康類型)の取り組みだ。阪神淡路大震災の教訓から防災への意識も高いエリアにあって、防災や地域医療をテーマにした探究を展開しているという。
「高齢者や障害者などのいわゆる社会的弱者が、災害時の避難所でどんな困難に遭遇するかを描いた演劇は圧巻でした。教員の深い指導と生徒の本気が重なり合い、観客など、関わる地域住民の意識も変えていく。リアルな課題とその解決に向き合う、非常に充実した取り組みだと思います」
西岡氏はもう1つ、昨年12月に京都大学で開催した「高大連携教育フォーラム」で報告された兵庫県立農業高等学校の例を示す。
「生徒たちは地域の農家に実際に話を聞くことで、肥料価格の高騰という大きな課題を見つけました。彼らはその解決のために、近隣の水産高校と協力し、水産廃棄物を有効活用して安価な肥料にするというアイデアを見事に実現させました」
これらの経験は生徒の進路選びに生きることはもちろん、その後の人生も大きく変えうるものだと西岡氏はほほ笑む。

(写真:各校提供)
教員がワクワクできるテーマで、楽しむ背中を生徒に見せて
西岡氏は、探究学習の評価にはポートフォリオが有効だと考えている。ポートフォリオは子どもの作品や自身での振り返りなどの記録とともに、教員からの評価やフィードバックを系統的な資料として保存するものだ。このポートフォリオの効果を高めるには、必要なポイントがある。その1つが、教員と生徒の対話による「共通理解」の構築だ。