新学習指導要領の学習評価「3観点」を活用して主体性を育成、脱・証拠探しへ プレッシャーが呼ぶ「えんま帳」「細切れ評価」

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2020年度から段階的に導入され、今年度には小学校から高等学校まで行き渡った新学習指導要領。「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力など」「学びに向かう力、人間性など」という3つの柱に合わせて整備された新たな評価の「3観点」だが、先行して導入された小学校や中学校でも、まだスムーズに活用されているとは言いがたいのが現状だ。教員は何を変え、どう取り組めばいいのか。京都大学大学院で授業のあり方などを研究する石井英真氏に、その心構えを聞いた。

まずは「思考・判断・表現」、態度はおのずとその先に

2022年度から高等学校でも適用された新学習指導要領は、「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力など」「学びに向かう力、人間性など」という3つの柱を育てるために、それに呼応する形で「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の評価の3観点を設けた。京都大学大学院で准教授を務める石井英真氏は、「現場の教員は新3観点のうち『主体的に学習に取り組む態度』に反応しがちですが、最も重要なのは『思考・判断・表現』です」と語る。

「態度という形のないものを評価するために、材料探しに必死になってしまう教員もいるかもしれません。でもそれは、学びが十分に深まれば、それに伴っておのずとついてくるものです」

主体的な態度の尺度となる興味・関心や意欲などといった情意の領域は、学びの「入り口」で測るべきではないと石井氏は断言する。単元のスタート時点でこれを見ようとしても、意欲や関心は単なる「食いつきのよさ」としてしか表れない。石井氏は「学習の入り口でいかに子どもが積極性を持てるかは、はっきり言って教員のやり方次第だ」と言う。未知の分野に触れるとき、子どもが「面白そう」「やってみたい」と感じられるかどうかは、教員がいかに授業を充実させられるかにかかっているからだ。

「情意は評価しようにも、概念の規定があいまいなものです。主体的な態度と一口に言っても、レベルによって表れ方も異なるし、主体性の程度もグラデーションのようなものなのです」

石井氏は「学習に取り組む態度を『粘り強さ』という観点から測るとしましょう」と例を挙げた。ここでまず、粘り強さという言葉の本質を理解し、そのグラデーション的変化を想像する必要がある。

「それは学習の入り口で捉えると単なる忍耐強さでしかありません。やりたくないと思っても我慢して臨む、スポ根的なものに近いかもしれない。しかし、学びを深めた学習の『出口』ではそれが『思慮深さ』に変わり、思考・判断・表現に伴う試行錯誤や工夫として表れます。さらに、教科のみならず「総合的な学習の時間」などでの学びを通して、『自分の夢に向かってやり切る』という意志の強さになります。ここに至れば、子ども自身の主体性や自主性をはっきりと見て取ることができるでしょう。だからこそ、なるべく学びの出口に寄せたところで、こうした変化の過程、子どもの力が伸びて表れる態度を育て評価すべきなのです」と石井氏は続ける。

では学びが深まり、出口に近づくとはどういうことなのか。今度は社会科で習う「三権分立」を例に説明する。

「三権分立とは何か、司法・立法・行政の3つだと答えられるのは『知っている・できる』という状態です。もう一歩進んで、互いの権力を抑制し合っているという状態まで理解できれば『わかる』といえるでしょう」

そしてさらに学びが深化すると、例えば選挙や組閣の報道を見て「これは三権分立と矛盾しているのでは?」と疑問を抱いたり、他国の仕組みとの関連に気づいたり、それを自分はどう捉えるかを考えたりするようになる。これは石井氏が考える「使いこなせる」という状態だ。「知識・技能」を満たす「知っている・できる」レベル、さらには「わかる」レベルをも超えて「思考・判断・表現」の段階をしっかりと深めた先に、知識を使いこなせるようになるというゴールがある。そうなれば、子どもの「主体的に学習に取り組む態度」も自然に表出してくるのだ。

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