廃車を解体して再資源化「鉄道リサイクル」の実態 人目に触れない「重要事業」をどう行っているか

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敷地の外周は盛り土でぐるりと囲まれており、外からは敷地内が見えにくくなっている。屋外に置かれている鉄道やバスの車両を見せないための配慮だ。敷地内には台車が取り外された状態の車両が置かれていた。陸送時は台車を取り外して運搬するためだ。「台車は案件によって購入する場合と、しない場合がある」という。

よく見ると、車両は窓ガラスや座席が取り外されている。こうした軽作業は屋内ではなく、屋外で行うこともあるそうだ。

車両は引き込み線を使って工場内に運び込まれる。鉄道事業者の元から持ち込むという構想は実現しなかったが、工場内へ運び込むという点では役立っている。

工場内では、まず密封した状態で車両からアスベストを除去した後、コベルコ建機と共同開発したマルチ解体機によって、専用のアタッチメントを使って車両を4分の1ずつに裁断し、その後はアームを器用に使って、内部の部品を取り除いていく。ケーブルから芯線を抜き出すといった細かい芸当も可能だ。

「トップクラスのベテラン社員による熟練の技です」と、同社の金瀬和幸工場長が教えてくれた。半年から1年もあればマシンを使いこなせるようになるが、そこから先は努力次第。昼休みの時間帯にドリンク缶をつまんで移動させて技を磨くスタッフもいるという。

「水平リサイクル」に発展するか

取り外した部品はマルチ解体機によってさらに再分別される。純度を高めれば、その分価値が高まる。目の前にある細かく裁断されたゴミのような山には、金が10数g含まれているという。ざっと計算すれば10数万円ということか。別の資源の山は銅。1トン当たり100万円くらいで取引されるとのことだ。分厚い構体は大型ギロチン剪断機で上部、左右から圧力をかけて一気に裁断し、鉄スクラップとして販売される。

日本総合リサイクルのような会社が、「くず鉄屋」と呼ばれていた時代もあった。しかし、不要となった廃材の再資源化に取り組むという点では、SDGs(持続可能な開発目標)の最先端を走っている。時代がようやく会社に追いついた。

廃車を解体して生まれた鉄、アルミ、銅、レアメタルなどの資源は国内の製造業に売られていく。これだけでも十分エコだが、再生資源を使って新たな鉄道車両に生まれ変わらせる「水平リサイクル」を行うというのはどうだろう。自動車産業ではすでに実施されている。

鉄道でも先行事例はある。JR東海が700系やN700系の廃アルミニウム材料を新たに製造するN700Sの車体の一部に活用するという取り組みを行なっている。これを鉄道業界全体に広げれば、「環境にやさしい鉄道」をさらに世界にアピールできるはずだ。

もっとも、現実には車両を解体し再資源化する過程を公開する鉄道事業者はまだまだ少数派だ。リサイクルしていることを胸を張って言えるよう、鉄道事業者自身が意識を変えることが必要だ。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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