問われるのは大人の意識、「本物のシティズンシップ教育」を阻むものとは 選挙権は与えたのに…「18歳は未熟な存在」?

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2022年4月に成年年齢が18歳に引き下げられたこともあり、主権者教育ともいわれる「シティズンシップ教育」の重要性は増している。成年年齢引き下げと同じタイミングで、高等学校では新学習指導要領によって「公共」が必修化された。これによって期待されるのは、現代社会のさまざまな課題に主体的に向かう力を伸ばすことだ。正解のない問いを考える学びには、どんな取り組みが有効なのか。公共の学習指導要領解説の作成にも携わった黒崎洋介氏に、今、教員に求められる役割を聞いた。

「模擬は模擬にすぎない」学びの意味を生徒に伝えるには

神奈川県立瀬谷西高等学校でシティズンシップ教育を担当する黒崎洋介氏は、学生時代から、従来の社会科教育に疑問を抱いていた。

「用語集の知識を詰め込んで受験を突破するだけが社会科の科目ではないはずです。もっと実社会で役立つ資質や能力を伸ばすことができるはずだと考えていました」

教員になってからも、生徒にとって身近な社会課題をテーマに授業を行うことを心がけている。太陽光発電の普及とその是非、集団的自衛権について、子どもの声は騒音か否か――など。時事性と争点性がある題材を選び、生徒たちにディベートをさせることで、問題を「自分事」と捉えてもらおうと取り組んできた。生徒同士の議論では、人権侵害に当たる発言があったり、あまりにも偏った意見が出たりすることもある。そうしたときにはきちんと注意し、反対意見にも耳を傾けさせ、別の立場から考えさせるなど、教員がその都度フォローしながら導いていく。

黒崎洋介(くろさき・ようすけ)
神奈川県立瀬谷西高等学校 教諭
早稲田大学教育学部社会科卒業、早稲田大学大学院教職研究科修了。神奈川県立湘南台高校勤務を経て、2017年から現職。総務省主権者教育アドバイザー

シティズンシップ教育の代表的な取り組みでもある模擬投票や模擬議会も実施した。

「議会の流れや法案の通し方を体験してみることで、生徒たちは、政治家たちが日々どんな業務を行っているかが想像できたのではないかと思います」

だが黒崎氏は、この手法に限界も感じるようになった。

「学びが学校の中で完結している状況に変わりはなく、あくまで模擬は模擬にすぎません。私が目指すのは、社会に開かれた形でのオーセンティックな学びなのです」

現代は学びの意味が見えにくい時代だと同氏は続ける。そしてそれは、とくに高校の「普通科」において顕著だという。

「学びに対するインセンティブが大学の合格だったり、あるいは落第しないことだったり。後者になるともはや脅しですよね。なぜ勉強するのか、さらに言えばなぜ学校に行くのかという問いに答えを示す1つの方法がシティズンシップ教育ではないか。私はそう考えています」

高校で行った模擬投票の様子
(写真:黒崎氏提供)
校長の小林幸宏氏。「学校の管理職は管理ではなく、学校経営が本分」という考えで取り組んでいる

黒崎氏の言葉どおり、少子化の影響もあって、全国の公立高校は定員割れを起こす例が増えている。実は瀬谷西高校も例外ではなく、2020年の入試を最後に新入生の募集を停止した。同校には現在3年生のみが在籍しており、来年4月には県立瀬谷高等学校と統合されて横浜瀬谷高等学校となることが決まっている。

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