問われるのは大人の意識、「本物のシティズンシップ教育」を阻むものとは 選挙権は与えたのに…「18歳は未熟な存在」?
校長の小林幸宏氏は2020年4月に瀬谷西高校に赴任してきた。すでに同校が再編・統合し完校することが決まっていたが、「生徒たちに寂しい思いをさせたくないと思いました。最後の生徒をどう卒業に向かわせるか、それを考える必要があると思ったのです」と語る。学校運営には通常の「アドミッション・ポリシー」に代えて「グラデュエーション・ポリシー」を掲げ、学校を挙げて持続可能な社会の担い手を育むシティズンシップ教育に取り組むことにした。
「どうせ瀬谷西だから」を「瀬谷西だからできた」へ
小林氏は同校の生徒について、自己肯定感が低い生徒が多いと教員から聞いていた。何とかすべく取り組んだのが、シティズンシップ教育の一環として「総合的な探究の時間」を活用した「SEYANISHI SDGs Project」だ。これは学年全員で取り組む大きなプロジェクトと、生徒自身が選んで参加する16のプロジェクトという2層で実施し、最終的な成果を2022年11月の「瀬谷西SDGsフェスティバル」で公開授業として開催するというもの。
全員参加のプロジェクトは、通学路でもある環状4号線(海軍道路)沿いに花を植える「フラワーロードプロジェクト」と、遠足として実施した江の島の「ビーチクリーン」運動の2つだ。前者は地域の人の協力を得ながらの取り組みで、「横浜市環境活動賞」児童・生徒・学生の部で大賞も受賞した。後者は識者による講演でマイクロプラスチックに関心を抱いた生徒たちが、自発的に「やりたい」と声を上げて実現したものだ。
また、16のプロジェクトは環境や経済、社会といった分野で大別され、その中でさらに「小麦」「地産地消」「動物愛護」など細かなジャンルに分かれている。ここではその1つである「美容プロジェクト」を紹介しよう。黒崎氏はその経緯を次のように説明する。
「美容に関心のある生徒たちが、美容院のことを調べる中で、ヘアカラー剤のキャップが大量のプラスチックゴミになることを知りました。何か有効活用する手立てがないかと彼女たちが調べたところ、近くにラップフィルムなどをリサイクルしてゴミ袋にする企業があることがわかったのです」
そこで生徒たちはその企業の協力を得て、カラー剤のキャップを再生してもらい、美容室で使うカットクロスに作り替えるというサイクルを実現させた。自身の興味から課題を知り、解決策を考えて自ら動く。この流れの中で学びが「自分事」になり、生徒たちが自信をつけていったように見えると小林氏もうなずく。
「SDGsというと海外の貧困問題や大きな環境問題を扱いがちですが、あまり遠い話だと子どもたちも実感が湧かないのだと思います。マイクロプラスチックのことも、江の島が身近だからこそ、生徒の反応も大きかった。テーマの選び方次第で、どこの学校でもすぐに実行できることだと思います。『どうせ瀬谷西だから』と言っていた生徒たちですが、『瀬谷西だからできた』と思ってくれたら本当にうれしいですね」

(写真:黒崎氏提供)
「問われているのは大人の意識」18歳を信用しているか
生徒の反応は、彼ら自身の進路選びにも如実に表れた。