問われるのは大人の意識、「本物のシティズンシップ教育」を阻むものとは 選挙権は与えたのに…「18歳は未熟な存在」?

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「フラワーロードプロジェクトなどを通じて地域貢献の楽しさを知ったある生徒は、街づくりが学べる学部を選んで進学を決めています。また資源循環プロジェクトに参加した別の生徒は、目立たなくても資源活用に尽力している人たちの存在を知ったようです。『そうした人たちの声を発信したい』と、メディア制作が学べる学部を選びました」(黒崎氏)

「模擬」ではない現実社会の人や物に触れたことで、生徒たちが感じる学びの意義も具現化したのだろう。黒崎氏が繰り返し強調するのは、「本物に出合うこと」や「社会に開かれた学び」の重要性だ。

「実生活に接続する学びからでこそ、これからの社会で必要な力が得られると思います。文部科学省もそうした資質を求めているはずですが、学校は以前と変わらず閉じた場所のままなのです」

シティズンシップ教育には低迷する投票率を上昇させる役割も期待されているが、そこに黒崎氏が考える「オーセンティック(本物)」を持ち込むことは非常に難しい。例えば今年の夏、宮城県の高校生が参院選についての自作ポスターを校内に掲示したところ、学校から「政治的活動だ」と注意されたことが話題になった。また現役の政治家を学校に呼ぶなら、特定の政党に偏らないよう配慮する必要がある。学校で手に取れる新聞は、各紙を用意して世論や思想のバランスを取ることも求められる。黒崎氏は「問われているのは大人の意識」だと語る。

「18歳選挙権は、18歳が主権者として十分に判断することができるからこそ実現したはずです。若年層の投票率を高めたいと思うのならば、高校生を政治的に未熟な存在として扱うのではなく、彼らを信じて託してほしい。そのためのシティズンシップ教育であり、右とか左とかいったイデオロギーではなく、デモクラシーの質をいかに深化させていけるかが重要なのです」

大学に行くため、資格を取るためだけの勉強なら、わざわざ学校に通う必要はないと黒崎氏は指摘する。黒崎氏の言うように効率をとる子どももいるのだろう。子どもたちの状況が多様化していることもあるだろうが、学校に通わずに学べる通信制高校の学校数と入学者数は、少子化の今日にあっても右肩上がりだ。だが黒崎氏は、生徒が集まる場所としての学校で、もうひと踏ん張りしたいと考えている。

「社会に開かれた教育を実現していくことが、『自分事』として生徒の関心を深め、学びに背を向ける子どもをつなぎ留めることになるのではないかと思っています。学校って面白いんだぜ、ということを、もっと子どもたちに伝えていきたいです」

(文:鈴木絢子、注記のない写真:大澤 誠)

東洋経済education × ICT編集部

東洋経済education × ICT

小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事