文科審議官・伯井美徳「日本の教育の根本揺らぐ危機」、教員の処遇改善に全力 つねに新たな課題生まれる学校現場は「生き物」
3つ目は通信環境です。文科省では毎年、全国学力・学習状況調査を実施していますが、23年度は中学3年生を対象に英語のスピーキングも調査します。「1人1台端末」を使って実施する予定ですが、通信環境は自治体や学校によってまちまちです。
今後、デジタル教科書・教材が普及すれば、全国で約3万校が一斉に端末を使用して通信を行うことになりますから、学校内だけでなく日本全国の通信環境に影響する懸念もあります。全クラスが一斉に使っても問題ないという埼玉県戸田市や茨城県つくば市のような先進的な自治体もありますので、そうした事例を参考にしながら、デジタル庁とも連携していきたいと思っています。

また、端末の持ち帰りも課題です。逡巡している理由の1つが費用です。どんどん持ち帰ってもらい、家庭での通信料も市がある程度負担するという熊本市の例もありますが、フィルタリングにもお金がかかりますし、充電のために持ち帰らせて保護者からクレームが来たという自治体もあります。端末を使った新たな学びのために、文科省としてもガイドラインや先進事例の普及、横展開に取り組んでいます。
ICT環境の整備は進んでいるものの、授業で活用している学校の割合を都道府県別に見てみると、地域差が顕著です。義務教育において、地域間格差やばらつきがあってはなりません。そこで、「GIGAスクール運営支援センター整備事業」の活用を全国で推進しています。ヘルプデスクだけではなく、教師、事務職員、ICT支援人材の研修なども可能となっており、授業の向上のためにも活用いただけるというものです。そのための予算を来年度はさらに増やす予定です。
感覚と経験値だけではなくデータ活用して次を探り出す
──22年1月には、デジタル庁、総務省、文科省、経済産業省による「教育データ利活用ロードマップ」が公表されましたね。
文科省だけでできないものは省庁横断で進めなければなりません。「教育データ利活用ロードマップ」で目指すのは、教育データの利活用による効果的な学びの支援です。学習履歴、児童生徒の行動を分析し、学習指導に活用するだけではなく、匿名化したうえで自治体を超えて学術的にビッグデータを活用できればと考えています。例えば、「この教科のこの部分でつまずきやすい」とわかれば、指導方法の改善にもつながります。これまでは感覚と経験値によるものが多かったのですが、データを活用して数値化し分析することで次の行動を探り出すことが可能になると思っています。
──教育データの利活用は、学習以外でも進んでいくのでしょうか?
家庭との連絡や学習評価など、校務のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進めば省力化が可能になり、教員の働き方改革につながります。
最近、私が訪問した学校では、コロナ禍の対応として毎朝、子どもの体温測定の結果を担任の先生が記録し、養護教諭の先生がまとめて校長に報告していました。これをパソコンやスマホでフォームに入力するなどして各家庭からデータで送ってもらえば、学校で瞬時に一覧できますよね。こうした校務の省力化ができる部分はかなりありますし、事務作業の迅速化につながります。今後はデジタル庁とも連携しながら、次世代の校務デジタル化に関する実証研究を行ってモデルケースを作っていきたいと考えています。