大学の「研究力・競争力」が低下している根本理由 競争力向上に向けた取り組み「大学ファンド」

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大学ファンド創設の目的は、これらの現状に対して、日本の大学を世界においてもトップクラスの研究大学に引き上げるために、財政・制度両面から強化を図ることだ。具体的には、JSTが大学ファンドを管理・運用し、その運用益をもとに、たとえば、大学等の共用施設やデータ連携基盤などの研究基盤に対して投資を実施することになる。また、博士課程に在籍する学生などの若手人材に対しても、長期・安定的な支援を実施する、としている。

なお、大学ファンドによる助成・支援は、2024年度から開始される予定である。その対象となる「国際卓越大学」と呼ばれる研究大学は、今後、政府の有識者会議によって決定される予定だ。

大学ファンドは10兆円規模へ

JSTが管理・運用する大学ファンドは、政府出資0.5兆円、財政融資4兆円などをもとに、合計5.1兆円の運用規模で、2022年3月より運用が開始されている。この運用規模は、早期に10兆円規模の運用資金を形成する、とされ、最終的には、かなり大きな運用規模を有することになりそうだ。

大学ファンドの運用目標、運用方法、リスク管理手法などは、JSTにより運用に係る基本方針が策定され、それに基づいて実際の運用が行われる。

○運用目標

まず、運用目標であるが、JSTにより策定された基本方針では、JSTの大学への長期的な支出目標である3000億円、すなわち、10兆円の運用規模でいえば3.00%に当たる支出目標率に、先行き25年間の物価上昇率推計値である1.38%を加えた合計4.38%が運用目標とされ、国内ファンドとしては、やや高めの目標が設定されている。

○運用手法

JSTの具体的な運用手法は、TOPIXといった株価指数などをベンチマークに設定したうえで、それに連動する運用成績を目指すパッシブ運用とベンチマークを上回る収益の獲得を目指すアクティブ運用を併用する。そのうえで、実際の運用は、信託銀行や運用会社等の外部運用機関に運用を委託する外部委託運用と大学ファンド自らが運用する自家運用とを組み合わせる。

○運用資産配分

運用資産配分については、株式65%、債券35%のポートフォリオを参照ポートフォリオとし、それと同等の許容リスクの範囲内で可能な限り運用収益率を最大化することを目指した資産配分割合を定める。これを基本ポートフォリオとして資産運用を行うが、年次での定期的な検証を行うとともに、経済動向や市場動向の情勢を踏まえて適切なリスク分析等を行い、必要に応じて資産配分の見直し検討を行う。

○運用資産

JSTの運用資産は、株式および債券投資といった伝統的な資産への投資だけに限定されない。一般的に伝統的な資産よりもリターンは高いものの、リスクも高いといわれる不動産や未公開株といった資産への投資、いわゆる、オルタナティブ投資についても、リスク分散や長期的収益確保の観点から積極的に推進する予定だ。

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