人権、とくに社会権と呼ばれる諸権利は、私たちが尊厳を持って生活し、社会活動に十分に参加するために不可欠な権利だ。社会権は国家による積極的な保障を要求するもので、健康(医療を含む)、教育、十分な生活水準、労働に対する諸権利などが含まれる。今日、多くの国の政府は、憲法や国際人権条約を通じて、これらの権利を尊重、保護、充足する義務を負っており、とくに先進国政府はその義務を果たすため、毎年少なからぬ予算を計上している。
社会権は近年まで、経済学において主要な研究対象とされてこなかった。しかし、もし社会権が現実社会において実効的な意味を持つのであれば、政府や社会の資源配分に何らかの影響を与えているはずであり、それは資源配分の学問たる経済学の関心事でもある。
筆者や関連分野の研究者は、憲法や国際人権条約上の社会権を「資源配分のルール」と捉える。そしてそれが実社会においてどのような役割を果たしているかを人口レベルのデータを用いて検証し、現実の人権保障制度の改善に役立てることを目標に研究している。
筆者らは、健康権、教育権、生存権などが、とくに脆弱な人々の健康、教育、生活水準の改善にどの程度役立っているかといった「人権の効果の測定」に関心がある。また、条文の文言や背後にある制度、支援体制など人権のデザインの変更を通じた「人権の効果の改善」、ある権利の推進がほかの権利の犠牲の下で行われていないかといった「人権の副作用とその抑止」にも関心がある。
本稿では健康権を中心に、人権が資源配分において果たす役割に関する研究の一端を紹介する。
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