ドラマ「エルピス」圧倒的な重厚感を生む3つの点 熱量が伝わる脚本や、長澤まさみの熱演も話題

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ただ、こうした重厚な社会派サスペンスドラマがこれまでになかったわけではない。直近では「マイファミリー」「最愛」「テセウスの船」(TBS系)などがストーリー性、キャスト陣の芝居、映像を含めた演出のよさがそろった作品として評価を集め、ストーリー考察や真犯人探しがドラマファンの間で盛り上がった。その作品評価は高いものの、一方でそれが一般層にまで響く社会的なヒットになったかというと、そうではない。

そのブレイクスルーには、作品性に加えて、時代性などの世の中的な事象とのリンクやタイミングが必要になる。もちろんその年ごとにヒットドラマは数多くある。しかし、それが後世に名を残す社会現象的なドラマになるかというとなかなか難しい。ここ最近で思い浮かぶのは、米津玄師による主題歌「Lemon」が社会的ヒット曲となった、野木亜紀子氏の脚本で石原さとみが主演した2018年の「アンナチュラル」(TBS系)くらいだろう。

リアルタイムで視聴者が意見を共有

ドラマに込められた制作陣の想いがにじむ作品性、それを底上げするキャスト陣の芝居が高く評価されている「エルピス」の序盤は、そのポテンシャルがある作品と感じさせられる。

隠された真実を追い求めるサスペンスフルなストーリーの行方とともに、登場人物の明かされていない過去や裏の顔の有無のほか、陰謀説などの深読みがSNSをにぎわせているが、リアルタイムで視聴者同士が意見を共有する考察視聴向きの作品であることも、これから先の展開次第で爆発的な話題を巻き起こすことが期待される要因だ。

王道のラブストーリーである「silent」は今期の目玉となり、多くの人に愛されるドラマになるだろう。一方、「エルピス」には時代に名を残す名作に化ける可能性を感じる。ただしそのためには、コア層を超えて一般層に響くなにかがなくてはならない。従来のテレビドラマとは異なる作りの「エルピス」には、これまでの枠に収まらないヒット創出が期待されるが、その突破口が生まれるかはこれからだ。それを期待しつつ注目したい。

※視聴率は関東地区ビデオリサーチ調べ。Twitterリツイート数はYahoo!リアルタイム検索より著者調べ

武井 保之 ライター

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たけい・やすゆき / Takei Yasuyuki

日本およびハリウッドの映画シーン、動画配信サービスの動向など映像メディアとコンテンツのトレンドを主に執筆。エンタテインメントビジネスのほか、映画、テレビドラマ、バラエティ、お笑い、音楽などに関するスタッフ、演者への取材・執筆も行う。韓国ドラマ・映画・K-POPなど韓国コンテンツにも注目している。音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク系専門誌などの編集者を経て、フリーランスとして活動中。

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