静岡リニア、数字が示す「62万人の命の水」のウソ 流域7市の大井川からの給水人口は26万人程度

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それにもかかわらず、川勝知事は「水1滴も県外流出は許可できない。全量戻しができないならば、工事中止が約束だ」などとJR東海に「全量戻し」を迫っている。

山梨県からの水を取水する富士川からの工業用水浄水場(富士市、筆者撮影)

ところが、今回、静岡県に甚大な被害をもたらした台風15号の影響で静岡市清水区の約6万3000世帯が断水、9月27日から8日間、川勝知事は富士川の水を急きょ「水道水」とする“超法規的措置”を取った。この結果、山梨県の釜無川を源流とする約1万立方メートルの水が毎日、被災地域に送られた。山梨県からの“命の水”に静岡県民が救われたのである。

9月23日に静岡県を襲った台風15号で、静岡市清水区は水道水源とする興津川取水口が流木などでふさがれてしまい、取水が一切できずに清水区全域が断水した。静岡市は静岡県に富士川からの緊急受水を要請した。

静岡県は、富士川河口付近に富士川浄水場を設けて、「ふじさん工業用水道」として地域の工場などに水を送っている。工業用水専用だから、一般の水道水としての使用はできない。

1985年と1996年の異常渇水の際、富士川の水が興津川の浄水場に送水され、水道水に転用された。この緊急時に、水道管が設置されている。

工業用水を水道水に転用するには、河川管理者・国交省関東地方整備局と協議を行い、河川法第53条(渇水時における水利用の調整)許可が必要となる。過去2回はその面倒な手続きで難航している。

健全な水循環とは、各県で融通しあうことだ

今回の場合、興津川の取水口に流木がつまり、清水区全域が断水という想定外のトラブルであり、関東地方整備局は文書等による手続きを後回しにして、工業用水の水道水転用を許可した。静岡県企業局は「超法規的な措置によって、目的外使用が許可された」と話した。

川勝知事は「水1滴も県外流出は認められない」とするが、山梨県の水で静岡県は救われたのである。県外へ流出する湧水を「県内に全量戻せ」とする法的根拠を、静岡県は県水循環保全条例に求めている。同条例第5条(事業者の責務)「事業者は事業活動を行うに当たって、健全な水循環の保全に十分配慮する」とあるが、この条例を根拠に、川勝知事の「全量戻し」の求めにJR東海が応じなければならないのか疑問は大きい。湧水に県境はなく、健全な水循環とは静岡県、山梨県で困ったときには融通しあうことが、今回の台風被災で明らかになった。

「命の水を守る」、「工事中の全量戻し」などが、川勝知事の“反リニア”姿勢の象徴となっている。国交省は、早急にリニア問題の水環境に関する不毛な議論に終止符を打つよう静岡県を強く指導すべきだ。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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