65歳以降の「年金待機期間」乗り切る重要ポイント 覚えておきたい「47万円ルール」と在職定時改定

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例をあげて説明する。ここに、年金の受給開始を70歳に繰り下げ、65歳以降も働いて収入を得ながら厚生年金を払い続けることを選択したSさんがいる。Sさんの毎月の給与は40万円、「年金はもらわない」のだが仮に65歳から老齢厚生年金を受給したとするとその額は月額15万円になる。合計で月額55万円となるので、47万円という基準額を8万円超過してしまう。そこで47万円ルールが適用され、超過分8万円の半分の4万円が15万円の年金から差し引かれる計算になる。

Sさんは、70歳からの繰り下げ受給を決めているので、実際には年金を受け取っていないにもかかわらず、受け取ったと仮定され「15万円-4万円=11万円」が年金額となり、この金額が繰り下げ増額の対象となる。

在職定時改定で働きながら年金をもらう選択も

増額対象の年金が下がることの影響は意外に大きい。本来なら月額15万円の老齢厚生年金を70歳から受給開始すると1.42倍の月額21万3000円を受け取ることができるはずだが、月額11万円が繰り下げ増額の対象となるので月額15万6200円となる。本来なら月額6万3000円増えるはずなのに、実際には月額4万6200円しか増えない。

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複雑な仕組みではあるが、年金は65歳時点で「繰り下げ受給をしない」と決めてしまうと、後から「やっぱり繰り下げ受給に変えたい」となっても変更はできない。反対に、繰り下げ受給を選択しておけば、後から65歳にさかのぼって受給することは可能だ。「47万円ルール」によって、思ったほどに老齢厚生年金の受給額が増えないと感じるかもしれないが、後から変更できることも考えて、まずは70歳を目処に繰り下げを検討し、待機期間中は働いて収入を得るのがおすすめだ。

一方、「働き続けることはできても、収入が足りない」という人が多いのも事実だろう。そんな場合には、「働きながら年金をもらう」ことを考えてみよう。この選択にもメリットはある。今回の年金大改正では、65歳以上で働きながら老齢厚生年金を受給すると、受け取る老齢厚生年金の金額が毎年、増え続ける「在職定時改定」が導入された。この制度によって「元気に働けるうちに、より多くのお金を手にすることができる」ようになった。「仕事も続けながら、元気なうちに旅行や趣味も楽しみたい」といった人たちには、おすすめだ。

増田 豊 社会保険労務士、2級ファイナンシャルプランニング技能士

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ますだ ゆたか / Yutaka Masuda

増田社会保険労務士事務所所長。社会保険労務士・2級ファイナンシャルプランニング技能士。1968年島根県隠岐の島生まれ。1991年に慶應義塾大学商学部を卒業後、全日本空輸株式会社(ANA)に入社。2001年から2年間、東京商工会議所産業政策部に出向し、年金制度改革などの政策提言活動に関わる。2021年にANAを早期退職し、同年9月に増田社会保険労務士事務所を開業。年金相談や企業の人事制度構築、人材研修などに携わっている。

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