自然の力を借りて子どもを育てる、北欧発祥「森のようちえん」の本当の価値 非認知能力を育むと再認識されている自然体験

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水遊びの後のお弁当タイム

森のわらべでは、始まりと終わりの会を大事にしているそうで、食後にもサークルタイムがあります。子どもたちはお弁当を食べ終わると、自然に輪になって、当番の子どもが蜜ろうのキャンドルに火を灯すのをじっと待ちます。

そして、順番にその香りを嗅いだ後に黙想をします。私も一緒に目をつぶると、聞こえてきたのは木々を揺らす風の音と虫の声。感じるのは、日の暖かさと草の匂い。静けさの中で、私自身、五感が開いていく感覚が味わえました。自由保育では協調性や自制心が育たないのではという人もいますが、このような時間で子どもたちは内省し、心の整え方も学んでいるのです。

食後のサークルタイム。輪になってキャンドルに火を灯し、順番にその香りを嗅いだ後に、黙想をする

子どもの力を引き出せるか、ふたをするかは大人次第

今回、一日同行する中で、子どもたちのさまざまな表情に出会い実感したのが、子どもたちはすでに力を持っている存在だということ。そして、その力を引き出せるか、ふたをしてしまうかは、大人の関わり方次第だということです。

森のわらべでは、月に何回か親たちもお手伝いに入ります。この日は代表の浅井智子さんと専任スタッフ2名のほか、OBや現役の保護者が5名。計8名の体制で保育が行われていました。これは国の規定よりかなり手厚い体制です。

森のわらべでは、月に数回親も当番として現場に入ります。その理由を「親たち、とくに母親に子育ての楽しさを取り戻してほしい。そう思ってこの場所をつくってきました。出産で野生に目覚めた母親が、子どもと一緒に本来持っている力を発揮していく場所として、自然の力を借りるのがいちばん自然だから、自然の中にいるのです」と浅井さんは言います。

取材日には、お父さんの姿もありました。一人のお父さんは、「自営業なので、平日の休みの日に、お手伝いをしています。保育に入ることで、家以外での子どもの様子を見ることができるのは自分にとっても幸せだ」と話してくれました。また、都会のマンションでワンオペ育児をしていたというお母さんは、「ここに来るようになって、子どもだけではなく、私も解放された」と言います。

親も集団の中で子どもたちがどう育つのかを客観的に見ることで、自分の子育てを振り返ることができるし、何より自然の力が、子どもだけではなく、親自身の生きる力も高めていくようです。

森のようちえんが大切にしているのは、大人も子どもも、一人ひとりが生まれ持ったありのままを受け止めてもらえる安心な場所であること。そして、自ら感じ、自ら考え、自ら行動し、その結果を自ら引き受けつつ、仲間と関わり合いながら主体的に「自分を生きること」に、子どもも大人も一緒に取り組んでいるのです。

そんな様子を見ていて、こういう場づくりは少人数の森のようちえんでしかできないのだろうかと、浅井さんに問いかけてみると、「みんなで手を携えれば子育ては楽しくなるし、そこに保育のプロが入ることで、親も子育てを学んでいくことができます。実際、今回の厚生労働省の保育所保育指針では、保育現場で母親力を高めるという文言が入りました。だから、親がもっと関われたらいいと思う。でも今の国の子育て支援は、逆に親から子どもを引き離し、孤立させ、子育てを楽しめなくさせているのではないか」と指摘します。

確かに、子どもの育ちや、非認知能力の育成には、幼児教育が重要だといわれる一方で、今の子育て支援のシステムは保育の場所を確保することが優先されています。子どもが育つ場所がサービスを提供する場所になった結果、預かる側も余裕がなくなり、子どもの育ちをゆっくりと待てなくなっています。親は忙しく、子どもたちもゆっくりと育つ時間を奪われてしまっているのです。

子どもの幸せのためには大人が豊かな時間を過ごすことが大切

実際、森のわらべも認可外保育施設として、幼児教育・保育無償化の対象園になっていますが、無償化の対象となるためには、市町村から「保育の必要性の認定」を受ける必要があり、助成金を受け取るために仕事を始めると結果的に親は忙しくなり、子育てを楽しむ余裕がなくなるという矛盾を抱えてしまいます。それが今の日本の幼児教育の現場や親子が置かれている現実です。

働いていても、月に1・2回、保育や幼児教育の現場に親がサポーターとして入ることで、得られることはたくさんあるような気がしますが、そんなことを言うと、「そんな余裕はない」という声が聞こえてきそうです。しかし逆にそんな時間も取れない現実を変えるにはどうしたらいいのかを考えてみることはできないでしょうか。今回、自然の中でいい表情を見せる子どもたちの顔を見ていて、そう思いました。

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