核を使ってもプーチンの「目標」達成は無理筋な訳 戦術核は「使えない兵器」が西側専門家の結論

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冷戦が終結すると北大西洋条約機構(NATO)は、核兵器は使用の根拠が極めて乏しい兵器であるため西側は核戦力を大幅に削減しうるという、内部の関係者が長年抱いていた確信を公に認めるに至る。NATOは戦術核兵器の軍事的価値は低いと判断。徐々にではあったが、保有量を大幅に減らしていった。

ヨーロッパは今も戦術核兵器を100発ほど保有しているが、その主な理由は、推計2000発の戦術核兵器を持つロシアに脅威を感じるNATO加盟国の不安をなだめることにある。

勝ち目のないギャンブル

問題は、プーチン氏が戦術核兵器の使用に踏み切るかどうかだ。

ロシア政府はこのところ、戦術核兵器をちらつかせて他国を威嚇・恫喝している。ブラウン大学の政治学者で核兵器研究に携わるニーナ・タネンワルド氏は最近、プーチン氏が初めて核兵器を使うという脅しに出たのは、2014年のクリミア侵攻中だったと指摘した。

2015年にロシアは、デンマークがNATOのミサイル防衛システムに加わるなら、デンマークの軍艦を核攻撃すると脅迫してもいると、タネンワルド氏は付け加える。プーチン氏は今年2月下旬、核戦力使用に向けて特別警戒態勢を取るように命じたが、それが実行に移されたことを示す証拠はない。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は先日、次のように結論づけた。「ロシアが核を使用したとしても、限定的な利益のためにとてつもないギャンブルを冒すことになり、プーチン氏の戦争目的が達成されることはないだろう。うまくいったとしても、前線を現在の位置に固定し、現在ロシアがウクライナで占拠している地域を維持するのがせいぜいだ」。それですら「何発もの戦術核兵器」を使用する必要があるという。

戦術核兵器を使ったとしても「ロシアがウクライナ全土を支配下に置くことはできない」ということだ。プーチン氏の当初の目標が、ウクライナを丸ごと占領することにあったのは言うまでもない。

(執筆:David E. Sanger記者、William J. Broad記者)
(C)2022 The New York Times

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