核を使ってもプーチンの「目標」達成は無理筋な訳 戦術核は「使えない兵器」が西側専門家の結論

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しかしチェルノブイリの原発事故とは違って、戦術核の使用は自らが選択する行為であり、それは捨て鉢の行為となる可能性が高い。核の使用をちらつかせて威嚇を繰り返すプーチン氏の行動は衝撃的に見えるかもしれないが、実はそこには長い歴史がある。

プーチン氏はいくつかの点で、アメリカが70年近く前に編み出した戦略を取り入れているからだ。ソ連の大規模侵攻に備えて、ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国を防衛するために考え出された戦略で、戦術兵器の使用により敵の侵攻スピードを遅らせるという発想がその基本となっていた。

「戦術兵器」とは何か

「戦術兵器」というのは、都市を丸ごと吹き飛ばす巨大な兵器と区別するために用いられている言葉だ。アメリカ、ロシアなどの核保有国は、強力な核弾頭を大陸間ミサイルに搭載し、互いに狙いを定め合っている。

これら巨大な核兵器は広島を破壊した原爆よりもはるかに強力で、ニューヨークやロサンゼルスといった都市が一撃で吹き飛ぶというアルマゲドン(世界最終戦争)的な恐怖をかき立てる。これに対し戦術兵器は、市街地の数ブロックを粉々にしたり、迫り来る部隊の隊列を止めたりするものではあっても、世界を破壊するものではない。

巨大な「戦略兵器」は結局、軍備管理条約の対象となり、アメリカとロシアが配備できる戦略核弾頭は現在1550発に制限されている。しかし、小型の戦術兵器は今も規制の対象とはなっていない。

さらに、大陸間ミサイルを取り巻く抑止理論、すなわちニューヨークを核攻撃すればモスクワも核攻撃によって確実に破壊されるというロジックも、小型の戦術兵器に対し全面的に適用されることはなかった。

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