リニア、静岡知事が指摘「他県の不都合な真実」 南アルプスでは長野から静岡県境越え目指す

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トンネルの地盤は粘板岩が中心で、見た目では湧水はほとんど確認できなかった。2021年5月に報道公開された南アルプストンネル山梨工区の広河原非常口では、トンネル外壁に水滴がうっすらと浮かび、天井から時折、水滴がぽたりと落ちていたが、それでもこれらの水滴を集めても湧水量は毎分400リットル(0.4トン)程度で、JR東海によれば「湧水と呼べるほどでもない」と話していた。今回は広河原非常口よりもさらに少ない。これに対して、静岡工区ではトンネル掘削により大井川の流量が最大で毎秒2トン(毎分120トン)減ると予想されている。まさに桁違いだ。

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長野工区全体の工期は2026年11月30日まで。2020年の豪雨災害(令和2年7月豪雨)などの影響により、工事説明会での説明から1年5カ月程度遅れ気味だというが、「工夫をして掘削の遅れを取り戻し、予定どおり終わらせたい」とJR東海中央新幹線建設部の古谷佳久名古屋建設部担当部長は意気込む。現在は地表面からの深さは100〜200m程度だが、今後は標高が高い山の尾根の下を掘削するため、深さは最大約1400mになる予定。トンネルにかかる岩の重みが増して、壁面などへの圧力が高まる難工事となる。「岩の様子を見ながら慎重に工事を進める」(古谷部長)。

しかし、JR東海の努力だけではどうもできない問題が立ちはだかる。この日公開された先進坑の切羽のおよそ4km先は静岡県との県境なのだ。長野工区と銘打ちつつも、作業の効率面などを考慮して実際は静岡県内に700mほど入ったところまでトンネル掘削が続けられる。

静岡県はトンネル工事で発生する湧水が大井川流域の利水者に影響を与えかねないなどの理由から着工を認めていない。仮に1日4mずつ堀り進めば3年後くらいに県境に到達することになるが、そこから先はどうなるか。古谷部長は「(掘削が県境に到達する頃には)湧水の問題は利水者の理解が得られているだろう」と心配する様子を見せなかったが、もし水問題が解決していなければ掘削作業は県境でストップする。

「不都合な真実はみなさん言わない」

9月7日には川勝知事とは今日初めて会ったという本村市長も取材に応じた。静岡県と同じく、相模原市も水の問題を抱えている。「私自身、水問題には非常に関心があり、JR東海には水が枯れたりしないようにしてほしいと会うたびに話をしているし、水問題で影響を受ける住民には丁寧に説明している。住民の間では慎重な意見も出ているが、どうすれば2027年開業に向けて動いていけるかを考える意見も多い。静岡県も当市も水の問題が重要だという点では共通している。今後も協調してJR東海や国に対して言うべきことを言っていきたい」。

川勝知事は関東車両基地のスケジュールの一件を引き合いに、「2027年に開業できるか、どの県の知事さんも知ってらっしゃるはず。でも不都合な真実はみなさん言わない」と発言した。ルート上の各県がそれぞれの課題を表に出して共有すべきという川勝知事の考え方は正しい。

おそらく、川勝知事は「工事の遅れの原因が静岡県だけにあるのではない。各県の遅れの状況を明らかにして新たなタイムスケジュールを設定すべきだ」と言いたいのだろう。そうであるなら、各県がどのように水問題や生物多様性などの課題に取り組んできたのかについても耳を傾ける必要がある。他県や自治体の意見を取り入れ、静岡県内の工事開始に向けて尽力すべきだ。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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