自民「政治資金パーティー」が映す権力争いの内情 表向きは「総主流派」態勢も、交錯する思惑

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ただ、岸田首相を始め来賓が競い合うように安倍氏の首相時代の「業績」をほめたたえる中、冷水を浴びせたのは、最大派閥の元領袖の森喜朗元首相だった。

体調不良で杖を突き、ホテル職員らに両脇を支えられて登壇した森氏。しかし、大きな声でいきなり「私は(安倍派の)会員ではなく、招待状も来なかったが、何年ぶりかで押しかけた」と発言して会場をどよめかせた。

さらに、「この派閥はほとんど私が作った」と力説したうえで、「(派閥の)数を誇っているのが一番危ない」と最大派閥領袖となった安倍氏を牽制。さらに、派閥の創設者が福田赳夫元首相(故人)だったことも持ち出し、清和政策研究会という派閥の名称についても「『清和会ではどうか』と相談したら、福田さんは『それでは派閥色が強すぎる』として現在の名称になった」と解説した。

その際の安倍派の議員席をみると、安倍氏側近が幹部席に結集する中、福田達夫総務会長は最末席に陣取って、森氏のあいさつにいちいちうなずき、それとなく安倍氏との距離感をにじませた。

その福田氏の周囲は側近議員が固め、岸田首相があいさつで「党では福田総務会長に支えられ……」と話し出すと、「そうだ!」という拍手で場内をどよめかせ、岸田首相のあいさつを中断させる場面も。これには安倍氏も苦笑いするばかりだった。

暗に安倍氏を牽制してみせた岸田首相

その一方で、各派の締めくくりとなった岸田派パーティーで岸田首相は「(宏池会として)30年ぶりに総裁となった」と繰り返した。

そのうえで、自らが初当選した際の派閥会長だった宮澤喜一元首相(故人)に触れ、「『(宮沢氏からは)権力は恐ろしいもの。謙虚で丁寧に使わなければならない』と教わったが、今その言葉をかみしめている」と暗に安倍氏を牽制してみせ、総裁としての矜持をアピールした。

岸田派パーティーでは、岸田氏が総裁選での売り物の「聞く力」を示す小道具としたノートをお土産として配布。その裏表紙に「自由民主党総裁・宏池会会長 岸田文雄」と印刷したあたりも、「まさに意味深」と波紋を広げた。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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