会社から「辞めてほしい」と言われたらどうする? 「解雇」とは違う退職勧奨とはどういう制度か

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会社は、選考書類や面接時の情報から、Aの実務能力を見極められなかったことは採用側の責任と受け止め、Aの今後に期待して、未経験者と同じように扱う方針を取りました。しかし、1年近く経過しても、Aの業務を遂行する能力はまったく向上しません。仕事のミスやクレームが多かったため、会社はAに都度、問題点を指摘し、具体的な目標を示しながら教育を続けてきました。

入社から2年ほど経ったある日、Aの不注意により、お客さまから大きなクレームを受けてしまう事態が発生しました。これまでAの度重なるミスをフォローしてきた上司も、「これ以上の指導は難しい」と会社に訴えたことで、ついに会社はAに退職勧奨を行うことを決断しました。

役員と上司はAと面談し、「再三にわたり指導を続けてきたが、会社が期待する業務水準に至っていない」「ミスを繰り返すことで取引先の信頼を損ね、契約を解除されるなど会社に損害を与えた」といった理由から、「会社としてAの退職を勧める」と告げました。

退職日まで勤務せず就職活動を

Aも自分の置かれた状況をうすうすと感じていた様子で、「今までずっと迷惑をかけてきたと思っています。退職をしたいと思います」と、素直に退職勧奨に応じました。退職条件は、「解決金の支払いはなし」「1カ月半後の退職日まで労働の義務を免除し、就職活動に充てる」という内容で、Aも同意しました。

この事例では、会社はAの教育指導を継続して行っていたこと、A本人も自分の職務能力が不足している自覚があったなどの前提があったため、会社とAの退職勧奨の交渉も円滑に進めることができました。

今度は、従業員がいったんは退職勧奨を拒んだ事例です。

<事例2 退職勧奨を従業員が拒んだケース>

コンサルタント会社でマネジャーとして自身の業務に加えて、部下のマネジメントも行っていた従業員Bは、中途採用で入社して以来、10年以上勤めてきました。

しかし、社内でのBの評判はあまりよくありません。部下や同僚からは、「高圧的な態度で仕事がやりにくい」「自分の意見ばかり押し付ける」といった声が挙がっていました。こうした言動を注意した上司に対しても、Bは「あなたの考え方は古い。自分は自分の考え方でやっているので口を出さないでほしい」などと言って聞く耳を持ちません。

加えて問題になったのは、Bの仕事の能力の低さです。「納期を守れない」「作成した資料がわかりづらく、会議資料として提出できない」など、仕事のパフォーマンスでも会社に貢献ができてはいません。

このままではマイナスの影響が大きいと会社は判断するに至り、そして、Bへの一度目の退職勧奨が行われたのです。

人事責任者と直属の上司に会議室に呼ばれたBは当初、自分がなぜ人事に呼ばれているのかを理解できていない様子でした。

「日常的な言動が職場の人間関係を悪化させていること」「自身の仕事のパフォーマンスも会社が求めている水準に至っていないこと」。人事責任者はこれらの理由を告げて、Bに退職勧奨をしたうえで、解決金として「賃金の6カ月分」を提示しました。

次ページBへの一度目の退職勧奨の結果は…
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