活況から一転、冷や水を浴びせられた不動産。コロナに泣き、笑うのは誰か。独自調査やトップインタビューなど全5回の連載でその背景に迫る。
「入居者募集中」。京都駅から10分ほど歩いた場所に立つ建物にかかる垂れ幕の文字。一見普通の賃貸マンションだが、実は今春まではゲストハウスとして運営されていた。
市内でこの物件を含む複数の宿泊施設の運営を受託していた業者は肩を落とす。「家賃の支払いが厳しく、こちらから撤退を申し出たり、オーナー側から用途変更を打診されたりしたケースもあった。コロナ前と比べ運営施設数は4分の1にまで減った」。
運営業者が抜けた物件の中には、冒頭のように急遽、賃貸マンションへと衣替えを余儀なくされたものもある。
「バブル」破裂後の勝敗
ホテル業界の中でも特に深手を負ったのが、訪日客に沸いた京都だ。とりわけゲストハウスなどの「簡易宿所」は許可が取りやすく、市内の施設は2015年からの5年間で7倍以上にまで膨らんだ。
背景にあるのが投資家勢の参入だ。新築でも土地代・建築費合わせて1億~2億円程度で開発できる簡易宿所は投資商品として流通し、運営会社が一括で借り上げ家賃保証をする例もあった。ほかの投資商品を凌ぐ利回りを叩き出し、さながら「バブル」の様相を呈した。
日本文化や住宅を楽しみたい訪日客を当て込み、簡易宿所の多くは京都の伝統的な木造家屋である「京町家」を模している。市内で京町家の再生や不動産仲介を手がける八清(はちせ)の西村孝平代表取締役は、「本来京町家は1950年の建築基準法施行前に建てられたもので、現在では取り入れないような自然素材を利用した手作りの建て方が多い」と話す。
が、実際は外装を京町家に似せただけで、内部はアパートと変わらない仕様の物件も少なくないという。「当社の場合、富裕層がセカンドハウスとして買い、使わない時期にだけ貸すことがコンセプト。利回りも6%あれば十分で、大きく儲けるものではない」(西村氏)。近年、宿泊施設が収益物件として成立していたのは訪日客という特需があってこそだった。
当然、訪日客の流入が止まるやいなや危機に瀕した。6月、京都簡易宿所連盟が行った調査によれば、客室稼働率が5%を切っていると答えた事業者は82%に上った。廃業も相次ぎ、5月からは市内の施設数が初めて純減に。ドミトリー(相部屋)タイプは感染リスクから敬遠され、単価の安さから「GoToトラベル」の恩恵も限定的など逆風が続く。
先行きを悲観し、物件を手放そうとしても一筋縄ではいかない。京都市内で不動産仲介を手がける日本収益不動産の井上雄玄代表取締役は、「純粋な投資目的での買い手は見つかりづらい」と指摘する。
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