ナノの次は1兆分の1、飽くなき精密追求の歴史
評者・福井県立大学名誉教授 中沢孝夫
「精密さ」を追求し続けた“人類の”というか“工学の”歴史を、工作機械をはじめとして、具体的な技術開発や、その開発(発明)に取り組んだ人物の奮闘、時代背景とともに記した1冊。
精密さ、とは「許容される基準値との誤差」(公差)を限りなく小さくする営為である。
例えば、旋盤は古代エジプトで発明されたが、18世紀末に英国で開発された現代の工作機械の先駆の公差は0.0025ミリメートル(1万分の1インチ)であったという(むろん、公差を測る機器も開発されていた)。これは1マイクロメートル(100万分の1メートル、1ミクロン)の2.5倍だが、現代でも十分に通用する数値である。評者が1990年前後に、ものづくりの職場調査を始めたころ、ミクロンレベルの加工というのは精密さの代名詞であった。
しかし、今はどうだろう。著者は半導体の世界に読者を誘う。71年のインテル製マイクロプロセッサ内のトランジスタの幅は10マイクロメートル(髪の毛の太さの10分の1)であったという。それが85年には1マイクロメートルにまで下がり、現在では14ナノメートルとのことである。ナノは10億分の1。それが私たちの身近なコンピュータの小ささ、手軽さの基礎になっている。思い返してみれば、90年代初めのデスクトップパソコンは机上の多くを占めていた。
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