国際分業が貿易理論刷新、カギは製造業の組立工程
評者・BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

[Profile]いのまた・さとし/1966年生まれ。90年ロンドン大学政治学部卒業、91年オックスフォード大学大学院経済学部卒業、95年多摩美術大学造形表現学部卒業。2014年一橋大学から博士号(経済学)取得。91年アジア経済研究所入所、17年からジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員。
10年以上前から、貿易論の専門書を開くたび、物足りなさを感じていた。規模の経済を前提にした新貿易理論でも、能力の異なる生産者の存在を前提とする新・新貿易理論でも説明できない事象が東アジアで起きていた。既存理論が説明するのは最終財の貿易だが、現実には生産工程の一部が途上国にシフトしている。説明には、新・新・新貿易理論が必要だった。

製造業の生産工程が細分化され、国境を超えて分散されることで誰が利益を得て、誰が損失を被るのか。比較優位論はもはや国単位の概念ではなくなった。本書は、学際的な概念であるグローバルバリューチェーン(GVC)研究の第一人者が国際生産分業の実相をわかりやすく論じたものだ。出口の見えない米中貿易戦争の行方を占ううえで大いに役に立つ。
当初、先進国では製造業が収益性の高いデザインや研究開発などの工程を国内に残すのなら、労働集約的な組立工程を途上国に移すのは、あらゆる点で望ましいと考えられていた。ただ、戦後、多くの先進国で非熟練労働を吸収し、比較的高い賃金を供給したのは製造業の組立工程だった。
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