企業城下町崩壊の記録、長期雇用に勝るものなし
評者・福井県立大学名誉教授 中沢孝夫
普通の勤労者が安定した雇用を失ったとき、暮らしと地域社会がどのように過酷な変化を強いられるのかを、克明に伝える本である。
本書の舞台である米ジェインズヴィルは、世界一の自動車メーカーだったGMの工場があり、世界に知られたパーカー万年筆の創業の地でもあるウィスコンシン州の南端の街で、人口は約6万3000人(2010年時点)。
GMはこの街で1919年にトラクターの製造を開始、何度かの不況のたびに閉鎖の危機に見舞われたが、シボレーやSUVへと生産車種を変更して、工場を稼働し続けた。むろん、おじいさんの代から、親の代からという現場の勤労者がたくさんいた。賃金が高く、健康保険や年金もあり、30年、40年と勤めれば、残りの人生も不安はなかった。家を建て、ボートやキャンピングカーなどを持ち、雉(きじ)撃ちや鹿狩りに興じたりもできた。高校を卒業して運よくGMに入社すれば、よい中間層の仲間入りができたのだ。
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