生産性から経済対策を評価 成長戦略の逆説を示唆
評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
総需要への刺激を続けて労働需給が逼迫し、名目賃金が一時的に上昇しても、物価が上昇すれば、結局、実質賃金は改善しない。実質賃金の継続的な向上には生産性改善が不可欠で、それを経済政策の目標とすべきだ。アベノミクスの下で、景気拡大は続いているが、生産性上昇率が改善した証拠はなく、それゆえ、実質賃金も上がっていない。
本書は、生産性を切り口に、イノベーションや働き方改革、地方創生などさまざまな経済対策の是非を論じる。エビデンスに基づく政策形成を重視し、新たな政策を考える際の指針となる一冊だ。著者はサービス分野の研究の第一人者で、政策実務の経験も持つ。
成長戦略の継続にもかかわらず、生産性上昇率が高まらない理由の一つは、生産性上昇の著しい分野で、価格が下落するほどには需要が増えず、経済に占めるウエイトが高まらないからだ。これがボーモル効果で、名目GDPの押し上げ効果が限られると、税収増も限定される。デジタル革命が喧伝されるが、ボーモル効果もあるため、過大な期待には釘を刺す。
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