1985年、川崎市で交通事故に遭った10歳の少年が、宗教の教義を重んじる両親に輸血を拒まれ死亡した事件は、後にテレビドラマ化もされるなど、広く世間の関心を集めた。医師にとって救命できるのに輸血しないのは受け入れがたい。一方で信者はたとえ救命されても、神を裏切った負い目を持ち続ける。医師の裁量権、患者の自己決定権、親の代諾権などの問題が提起された事件だった。
「エホバの証人」(ものみの塔聖書冊子協会)は米国発のキリスト教系団体である。聖書は、動物の血を食することを禁じている。同教団では血は「命」を表しており地面に注いで神に返すもので、輸血も「血を食べる」ことと同じであると解釈されている。
東京都立墨東病院高度救命救急センター部長の濱邊祐一氏は、「輸血を拒否され他院に転送した患者もいれば、輸血をせずに何とか乗り切れたケースもある。現場レベルではそれなりに対応できている」と語る。
近年は、患者の権利としての自己決定権を尊重する傾向がある。しかし、なおも問題になるのは冒頭の「川崎事件」のような未成年のケースだ。
そこで2008年、日本輸血・細胞治療学会、日本麻酔科学会、日本小児科学会、日本産科婦人科学会、日本外科学会の5学会が合同で「宗教的輸血拒否に関するガイドライン」を作成した。信者の意見を聞く場も複数回設け、日本輸血・細胞治療学会理事長だった大戸斉氏(現・福島県立医科大学副学長)が取りまとめに当たった。
ポイントは、本人や親が拒否していても命の危険があると判断されれば、15歳未満の患者には輸血を行う、という指針を示したことだ。患者が15歳未満ならば、親権者双方が拒否する場合でも必要ならば輸血を行う。親権者による治療の妨げがあった場合は、子どもに対する「ネグレクト(養育怠慢)行為」と見なし、親権者の職務執行停止処分の手続きを進めるとした。
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