Stefan Folster●スウェーデン王立工科大学准教授。斬新な改革を専門とするストックホルムのシンクタンク、リフォーム・インスティテュートのマネジングディレクター。
公共「商業資産」のあるべき姿を論じる
評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
豊かな天然資源に恵まれても、経済が停滞する国は少なくない。強権的な政治制度の場合、豊かな資源に恵まれるほど、むしろ経済は停滞気味だ。恩顧主義が幅を利かせ、政治的支持への見返りに、資源開発などの特権が利益集団に提供されるからだろう。犯罪とまでいかなくても、政府保有の公共資産を巡る腐敗は、先進国でも日常茶飯である。
問題の根源は、政府が商業的価値を持つ資産を保有することにある。多くの国で公的債務を上回る公的資産が存在し、規模は国内総生産(GDP)を上回る。ならば公的資産を売却すべきか。一時、民営化が注目されたが、手軽に富を膨らませる機会の提供で、縁故主義や汚職の原因となる場合も少なくない。
本書は、公共資産のガバナンスの実態とあるべき姿を論じたものだ。民営化の是非は不毛な論争で、問題の本質は公的資産のガバナンスにあると論じる。商業価値を持つ公的資産を政治から切り離すべく、透明性の高いナショナルウェルスファンドなど持ち株会社に移管し、独立した専門家に運営を任せることを提案する。政治的腐敗の回避で、民主主義が前進するだけではない。既得権者が非効率に利用する公的資産の効率活用が可能となり、付加価値は増え、資産価値も向上する。最先端を行くのはスウェーデンで、著者の一人はナショナルウェルスファンドの経営に携わった。日本も成長戦略として参考にすべきだ。民間資金の活用で、不足する社会インフラ整備の切り札にもなり得る。
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