生々しく描かれる外交の最前線の姿
評者 作家 黒木 亮
「プーチン化」という語がある。長期にわたって権力の座にあるうちに政治指導者が強権化することだ。最近の例では、トルコのエルドアン大統領が挙げられる。我が国の安倍晋三首相にもその兆しがある。本書は、コネも野心もなかった一介のKGB(旧ソビエト連邦国家保安委員会)将校ウラジーミル・プーチン氏が大統領に据えられ、「プーチン化」していく過程と、彼の深層心理を解き明かす。
彼の心のあり方は子供時代と青年期の苦い経験に根差している。著者たちは、ロシア、欧州、イスラエル、米国などのプーチン氏を直接知る人々約20人にインタビューし、同氏が子供時代に喧嘩ばかりしていたこと、小柄で力もなかったゆえに肉体や力に対する劣等感を抱いていたであろうこと、それで柔道を始めたこと、KGBに入ったのは、旧ソ連で最も恐ろしく、強い組織に帰属したかったからと思われること、そうした経験で培われたのは負けることだけは我慢がならないという性分であることなどをあぶり出していく。またKGB将校として旧東独のドレスデンに駐在していた37歳のときに、旧ソ連の崩壊を目の当たりにし、屈辱と失意のうちに帰国した事件が、ロシアを強国にしたいという想いの原点ではないかと指摘する。
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