解説経済学は本当に科学なのかと鋭く問う
評者 東洋英和女学院大学教授 中岡 望
経済学者にとっても一般読者にとっても、極めて挑発的な本である。著者は「経済学は本当に科学なのか」と問いかける。評者も同じ思いを抱いている。10名の経済学者がいれば10の分析が存在する。これは自然科学ではありえない。著者はさらに経済学者は「物理学が煎じ詰めれば数学と同じであるように、経済学もそうであっていいのではないか」と思っていると考え、その方法論を批判する。
保守派でノーベル経済学賞受賞者のロバート・ルーカスは「経済理論上の問題を数学的に表現できなければ、正しい道を歩んでいるとは言えない」と語っている。これに対し著者は「ありもしない数学的精密性を追求し、根拠薄弱な前提を土台にしている」「経済学の信憑性に疑問がある」と、主流派経済学の有効性に疑問を投げかける。
経済学者は、経済学と価値観を切り離すことで経済学を科学にしようと努めてきた。だが、経済学はイデオロギーと無縁ではありえない。主流派経済学はアダム・スミスの「見えざる手」の理論に依拠している。大恐慌での市場の失敗で信用が失墜した古典派は1980年以降、再び主流派へと返り咲いた。著者は、「見えざる手」の理論は「明らかに欠陥があるにもかかわらず、エレガントさという強い魅力ゆえに絶大な影響力を持ち続けてきた」と指摘する。
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