憲法を政争の具にする独善的な風潮に警鐘
評者 慶応義塾大学環境情報学部教授 渡辺 靖
タイトルを見て「ああ、また安保法制批判かよ」と思ったあなた。
著者・井上達夫氏を甘く見てはいけない。法哲学の泰斗である著者は、改憲派のみならず、むしろ護憲派の欺瞞を深く憂えている。
9条が戦後日本を平和国家にしたという欺瞞。自衛隊安保は違憲だが政治的には容認する原理主義的護憲派の欺瞞。自衛隊安保を合憲と自ら解釈改憲しておきながら安倍晋三政権の解釈改憲を糾弾する修正主義的護憲派の欺瞞……。
それらを断罪する著者の姿勢は、「劣化した保守」と「似非(えせ)リベラル」の双方を批判した前作のベストセラー『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』と通底する。
自らの政治的目的のために「民主主義」や「市民」を都合良く解釈し、憲法を政争の具にする独善的な風潮に警鐘を鳴らしているのだ。
著者は「9条削除論」を提唱する。一見過激で、それ故、誤解も多いが、その根底には、憲法はあくまで公正な政争のルールであって、政策論争そのものを憲法で凍結してはならないという認識がある。
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