「10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜を罰するなかれ」──著者はかつて監督した映画の冒頭にこの法格言を掲げた。法制審議会特別部会の委員として「小さいけれど、確かな一歩」を踏み出すまでを描いた「記録本」に込めた真意とは。
──3年に及ぶ刑事司法改革ドキュメンタリーです。
僕が体験したことのすべてを伝えることはできない。だが、こういう審議会の場で誰が何を言い、どのようなことがあってどの部分で僕が妥協したのか。なぜそうせざるをえなかったのか、記しておきたかった。これを一つの例として、法律がどうできていくのかを伝えるべきだと思った。日本はお上が強い国だし、会議で法学者に言われたが、専門家に任せておけばいいで済ませがちだ。そうではなく、素人の僕なりにほかの多くの素人に、こんなふうにして法律はできていくと伝えたかった。
──議論の相手は法曹界の人たちでした。
プロフェッショナルな人たちは勝手が違ったと思う。
彼らが使う言葉は法律用語であり、法曹界の常識という手垢にまみれた言葉だ。専門家同士だと、お互いが共通認識を持つ前提での議論となる。ところが素人相手ではそうはいかない。どんな世界でも素人には、知らないからこそ言えるという強みがある。素人の疑問に、専門家がきちんと答えられるのか。そこが大きな問題だと思う。
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