蔭山 なぜなら彼らは「若くして引退を迫られる」ケースが多いからです。20代前半で引退すれば、企業は「第二新卒」扱いで、ポテンシャルを評価して、採用し、育ててくれます。逆に言うと、第二新卒でないと公募がないのが実状です。
常見 なるほど。早く引退せざるをえない構造が、逆にアスリートを救っているということですね。
青木 格闘技の場合は、自分さえよければダラダラと現役を続けることができてしまうのが、選手の人生にとっては好ましくないことであると思います。僕は23歳から格闘技を仕事としてきましたが、その時に自分で「26、27歳で、一人で生きていくのが精いっぱいの収入だったら辞めよう」と心に決めていました。
常見 そんな決心をされていたのですか!26、27歳の頃は、青木さんは大きな格闘技イベントのメインイベンターを務めていましたし、最近は海外での試合も増えました。今年はドバイで試合でしたし。格闘家としては成功されていますね。
ところで青木さんが総合格闘技である修斗に入門された時の同期の方は、今はビジネス界へ転身されているのでしょうか。
青木 格闘技の世界は初めから収入格差が大きく、潤っていない業界です。ですから最初からバイトをしながらの格闘家生活というのが一般的です。
「食えない」と気づけることは、幸せである
常見 蔭山さんの「Jリーガーは引退後第二新卒として、企業に就職できる可能性がある」というお話と、青木さんの「格闘家はバイトをしながらも現役を続けていける」というお話から見えてくるのは、「食えない」と「早く気付ける」のは「幸せ」だということですね。
これは「バンドを辞める奴の理由は、たいてい金か女だ」ということと同じです(笑)。ここでいう「金」というのは生活していく金が続かないこと、「女」というのは、結婚という意味です。要するに生活のこと、食えるのかということを言っています。あ、これは私の言葉ではなく、高校の同級生の言葉です。彼は毎年、ロックフェスに出ているくらいに売れているのですけどね。
青木 確かにバンドと格闘技はカルチャーが似ていますね。
常見 ところで蔭山さんから見て、早く引退を決意できずに第二新卒を逃した「中途採用」枠では、アスリートの就職は厳しいですか。
蔭山 厳しいですね。資格や人脈があるなら別ですが、何もない場合年齢は大きな壁になります。
青木 格闘技の世界は、圧倒的に「中卒・高卒」の選手が多いです。だから長い間現役を続けた末に、中途採用で転職しようとした時に「学歴」がネックになることが多いような気がします。
例えば、現在38歳で引退の時期が迫りつつある仲のいい選手がいるのですが、指導者として働いても収入的に厳しいので、普通に会社勤めをしようとしました。しかし彼は「中卒」だったので、格闘技関係以外ではやはり転職が難しく、できたとしても職種が限られてしまうようです。
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