マンチュリアン・リポート 浅田次郎著
1928年、張作霖(ちょうさくりん)を乗せて奉天駅に向かっていた列車が、交差する橋脚の爆破によって押し潰された。関東軍の陰謀によるこの張作霖爆殺事件は、田中義一首相が昭和天皇に叱責され総辞職した昭和史の一大事件である。軍規違反で服役中の中尉が、昭和天皇から骨のあるところを見込まれて隠密裏に事件の真相究明を命じられるという着想が面白い。ドラマは満州に渡った中尉がしたためた天皇への7通の報告書の形をとって進む。張作霖を乗せた列車の機関車が擬人化され、その独白が入るのだが、これが補完的かつモード転換に貢献している。
傑作『蒼穹の昴』以来のシリーズ4作目で、主人公は個性的な張作霖と西太后お気に入りの英国製機関車(アイアン・デューク)である。関東軍はむしろ脇役で、張作霖と幕僚たち、息子の張学良らの動きが史実として小説(フィクション)にはめ込まれる。昭和史の闇とはいえ、物語の中では真相が明らかにされ、推理と歴史のイフと余韻が楽しめる。(純)
講談社 1575円
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