若者の投票率低迷に風穴を開ける能條桃子の正体 18歳選挙権導入で学校でも始まる「主権者教育」

主権者教育に必要な「パブリックマインド 」と知識、スキル
――そうした中で、能條さんは「主権者教育」を提唱されていますが、それはどのようなものなのでしょうか。
主権者教育には、必要なことが2つあります。1つは「パブリックマインド」を育むことです。自分の生きている社会は自分さえよければいいというものではない。だからこそ、社会のために何か貢献すべき。狭量な個人主義に走るのではなく、公共のことも考えていく「パブリックマインド」が重要になっていると考えています。
もう1つは、有権者として社会に関わっていくために必要な知識、スキルを身に付けることです。実際、18歳選挙権が導入されたことで、学校でも主権者教育が始まっています。熱意のある先生がいたり、プロジェクト型の授業をしたりしていて、いいなと思う一方、どこまで現実の政治が語られているのかなと。まだ、それほど広まっていないのは、教育で政治をタブー視していることも影響しているのかもしれません。しかし、政治を当たり前に話せる人を増やしていくためには、やはり知識として政治を教えていくことが大切です。そこは学校の先生だけではなく、NPOをはじめ、外部のリソースを活用することも手段の1つだと思っています。
――「パブリックマインド」は、日本の「利他」の考えにも通じるものですね。
ただ、今は少子化によって親の熱量が高まる中、子どもたちは競争的な生き方を強いられるようになっています。中学受験が過熱していることからもわかるように、どうしても自分さえよければいいと思わざるをえない状況が生まれている。それが、子どもたちの人格形成にまで影響してしまう可能性があるのです。事実、大人が提供する価値観に沿う子どもが育っていて、寄らば大樹の陰、波風を立たせないといった、より従順な性格を持つ子どもたちが増えているように見えます。
子どもたちは小さい頃から習い事などで忙しく、自分の考えを深掘りする機会が少ない。今まで大人に示された基準をクリアする生活をしてきましたから、与えられた課題の正解を見つけることに時間を費やしています。大学生も社会に関心がないわけではありません。しかし、誰かがやってくれるだろうと思っている、あるいは自分が違うと思っても提案することができないのです。それらのバランスを取るために、主権者教育の考え方が必要だと考えています。
――若い世代の投票率の低さは、これまでも指摘されてきましたが、なぜ今も上向かないのでしょうか。
それは既存のマスメディアの影響力が少なくなって、若い世代がSNSで好きな情報しか見なくなったことが大きく影響していると考えています。ただ、それだけではなく、平成に入ってから30年以上、20代の投票率はずっと低いということは、今の40代、50代もそうだったと考えると、つねに日本では若者の投票率は低いということになります。その意味では、ずっと日本は変わっていないのです。
――確かに、昔からそうでした。
私は、地元の公立中学から東京の私立進学校に進学しましたが、高校では初めて話の合う友達ができたと思う一方、中学時代は誰もが大学に行くわけではないという環境で育った中で、格差の問題を意識するようになりました。私は親にも恵まれ、たまたま勉強が好きだったから大学に入りましたが、もう少し世代がずれていたら、大学に入っていなかったかもしれないという違和感を今も強く持っています。格差のなくならない社会の中で、自分がどのように世の中にコミットしていくのか。そう考えるようになったことが、政治への関心を高めたと思っています。