食品値上げラッシュで、経済再開後に起きること 家計の「買い回り」活発化で低価格志向が復活へ

✎ 1〜 ✎ 64 ✎ 65 ✎ 66 ✎ 最新
拡大
縮小

家計の「低価格志向」(「購入単価指数/調整CPI」)の3つの決定要因を説明変数として、食料の「購入単価指数/調整CPI」を説明するモデルを作成するとこれらの3要因は比較的高い説明力を有することがわかった。

購入単価指数/調整CPI
= 0.2×(実質賃金) -0.2×(エンゲル係数) +0.7×(新型コロナの影響) +定数項
    (24.7)      (-2.6)      (5.5)          (24.7)
※カッコ内の数字はt値。自由度修正済み決定係数は0.76

実質賃金やエンゲル係数が高い説明力を有することはイメージどおりといえそうだが、コロナ禍以降のエンゲル係数の上昇分を変数とした「新型コロナの影響」が「購入単価指数/調整CPI」を押し上げている効果もかなり大きいことがわかった。コロナ禍が家計の「低価格志向」を抑止しているのである。

経済再開が進むと「低価格志向」はもっと強まる

例えば、今後も「経済再開」が進みエンゲル係数がコロナ前の水準に戻っていくと仮定すると、「購入単価指数/調整CPI」は過去最低水準まで低下する見込みである。もっとも、このような結論は、11月の「景気ウォッチャー調査」にあった下記のコメントを考えれば明らかでもある。

「常連客がかなり減っていることと、原材料の値上げ等で各商材が値上がりするなか、客は1円でも安いスーパーを買い回っている様子がここ 1~2 カ月顕著にみられる」(南関東、スーパー〈店長〉)

すなわち、経済再開が進めば進むほど、家計は「低価格志向」を強め、食品価格の値上げを受け入れなくなっていくことが予想される。サービス消費が増えるなどの効果はあるものの、日本経済全体にとっては「痛し痒し」の状況となりそうだ。コロナ禍からの回復は一筋縄ではいかないだろう。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT