「使えない大人」を量産する教育に足りないもの 現代社会に必要なのは「親世代が知らない学び」

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だが「教えてもらえないから」とつまずく生徒はいなかった。友達同士で相談したり、もちろん自分で調べたりして、ソフトの使い方もあっという間に習得。制作期間がコロナ禍によるオンライン授業だったことを逆手に取り、外国語で在宅の家族を紹介する生徒も現れるなど、自由な発想は品田氏をうならせた。

自ら学んだ経験が、大人になっても学び続ける姿勢をつくる

「今、大学生が学ばないとか、就職してもパソコンが使えないとかいわれることがありますが、本当にやらせたいなら自発的にやりたいと思わせることが必要です。例えばタッチタイピングの練習をさせなくても、伝えたいことがあれば子どもたちは自然に練習するようになる。そうした生徒の心をつかむ課題は、教室の中で完結しないことばかりです」

品田氏はいい課題を見つけることが教員の役割だと考えており、学外との連携も積極的に行っている。その1つが、高校2年次に取り組む国際協力プロジェクトだ。

「生徒は自分たちで対象とする国を選び、その国の抱える課題を調べます。課題解決のためにできることを考え、さらにその解決策を実践するところまで行います。中間発表と最終結果報告にはJICA(国際協力機構)職員や大学教員、起業家などを招いて意見を聞くのですが、専門家の現実的な言葉には教員もハッとさせられます」

水資源の問題を抱える国に向けて、「ペットボトル浄水器」を送る案を出したグループがあった。自分たちで作った浄水器の試作品を持って中間発表に臨んだが、JICA職員から「君たちが対象とした地域ではそもそもペットボトルが手に入らない。その案は意味がない」と痛烈な指摘があったそうだ。

また、貧しい国への支援というと、生徒たちからはすぐに「募金しよう」「物資を送ろう」という案が出るという。こうした案にも「わずかなお金や物資を送って、数人が受け取って終わりなのか」という厳しい意見が向けられる。

「大人の容赦ない言葉に生徒たちは驚きますが、プロがしっかり向き合ってくれることに刺激されて、根本的な解決策を考えるようになります。自分のアイデアを実現するには予算が足りないとわかり、LINEのスタンプを作って売った生徒もいます。さらにその売り上げを元手に基金をつくり、長期的な支援策に結び付けました」

こうした実社会の課題では、教員といえども生徒の質問に答えきれないことが多い。そんなとき、品田氏は「正解は1つではないから、先生にも正解が教えられない」とはっきり伝える。

「大人にもわからないことがあると示すことで、いい意味で、教員が答えをくれることを期待しすぎない姿勢が身に付くと思っています」

では誰に聞いたらいいのか、どんな専門家がいるのかと考えることは、生徒たちの進路選びにもつながるはずだ。こうした「自分で学んだ経験」を品田氏が重視するのは、それが大人になっても自発的に勉強する人を育てると考えているからだ。

「社会に出て新しい分野や局面に触れたとき、また勉強してみようと思える人になってほしい。教員でも未経験のことに対し『やったことがないから』と尻込みする人がいますが、自分が経験したことのない教育にシフトして生徒に向き合っていかなければ、社会で使えないといわれる大人が増えてしまうと思います」

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