創業者たちが大手テック企業を「去り始めた」事情 ジャック・ドーシーはツイッターCEOを退任
派手なカンファレンスに招待され、投資家からは資金を浴びるように提供され、メディアからは破壊的な革新者の到来としてもてはやされた。運がよければホワイトハウスに招待されて、バラク・オバマ大統領と一緒に時間を過ごすことさえできた。
バイラル動画による人道問題の告発キャンペーン「KONY(コニー)2012」や「アラブの春」などに象徴されるように、SNSは世界を変えていた。そして、自らが運営するアプリの利用者数が伸び続けている限り、人生は順調だった。
ところが今では、巨大SNS企業の経営者であるということは、見たところ、かなり悲惨なものとなっている。確かに彼らはリッチだし有名だが、肥大化した官僚機構を管理し、「社会の劣化を招いた」としてやり玉に挙げられる日々を過ごしている。世の中を変える破壊的なイノベーションを行う代わりに、退屈な会議に出席し、政治家に怒鳴られるために首都ワシントンへ飛ぶことが日常になった。
もはやクールな若者たちはSNS大手で働きたがってはおらず、NFT(非代替性トークン)に熱中したり、ウェブ3.0の世界でDeFi(分散型金融)のアプリを構築したりするのに忙しい。これに対し、巨大テック企業の経営者は規制当局の監視でがんじがらめになっている。
血湧き肉躍る暗号通貨の無法地帯
そうした中で、黎明期ソーシャルメディアの「緩くて、何ものにも縛られない自由な精神」を受け継いでいるのが現在の暗号通貨シーンといえる。暗号通貨のスタートアップ企業は莫大な資金を調達し、世の中を熱狂させ、世界を変えるというユートピア的な使命を掲げて突き進んでいる。暗号通貨の小宇宙は、チャレンジ精神旺盛な風変わりで並外れた天才であふれている。
ブロックチェーンによって構築される分散型インターネット「ウェブ3.0」のビジョンには複雑な技術課題が山積みとなっているが、こうした課題こそがまさにエンジニアの大好物だ。さらに、巨額の資金が流れ込んでいることも、巨大テック企業の仕事に燃え尽き、若き日の情熱を取り戻したいと考えている従業員たちを暗号通貨の世界に引き寄せる要因となっている。会社を後にするCEOらにも、これと同じことがいえるのではないか。
ドーシーとその仲間たちに起きていることは、「単なる責任逃れ」と冷ややかに解釈することもできる。自らがつくり出した混乱の後始末を他人に押しつけて、宇宙空間に飛び立ったり、暗号通貨とたわむれたりしている、という見方だ。
それでも、バトンタッチには何らかのきっかけが伴うものだ。ドーシーは権力の中心に到達することがどういうことなのかを身をもって知った。その彼がインターネットの分散に向けて自ら行動を起こしたくなったのだとしたら、それを責めるのは難しい。
(執筆:テクノロジーコラムニストKevin Roose)
(C)2021 The New York Times Company
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