パウエルFRB議長は今後「豹変」するかもしれない 再任されたことで「ハト派」ではなくなるかも

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さらに、パウエル議長会見の2日後、5日に発表された10月のアメリカ雇用統計では、非農業部門の雇用数が9月から53万人増加。40万人程度としていた市場予想を大きく上回った。

また、9月分も増加数は19万4000人から31万2000人、8月は36万6000人から48万3000人にそれぞれ上方修正されており、かなりのサプライズだったということができるだろう。

物価指標である時間当たり賃金は、前月比では0.4%とほぼ予想どおりの上昇となった一方、前年比では4.9%と、今年2月以来の高い伸びを記録している。パウエル議長は会見で、賃金の上昇がインフレ動向に影響を及ぼしている事実はないとの見方を示したが、今後も雇用市場が逼迫、賃金上昇が加速するなら、議長の見立てとは違い、物価を押し上げる大きな要因になりそうだ。

実際、状況は日に日に悪化している。10日に発表された10月の消費者物価指数(CPI)は前月から+0.9%と、予想を大幅に上回る伸びを記録した。前年同月比では6.2%と、なんと1990年12月以来、31年ぶりの高い伸びを記録している。インフレもいよいよ「待ったなし」の状況になったと考えておいたほうがよさそうだ。

このときも、統計発表後も買いの勢いが継続、むしろ景気が順調な回復基調にあることをあらためて好感するような反応をみせた。パウエル議長の早期利上げ否定発言が効いたのか、雇用統計の強気サプライズをもってしてもインフレや利上げに対する懸念が高まることはなかったようだ。

今後、株価の上昇がいつまで続くのかは何ともいえない。だが少なくとも、インフレ動向がこの先も市場の注目を集め続けるのは間違いない。パウエル議長の見立てどおり、来年に入ってインフレ圧力が後退すれば、株価も高止まりを続けることになりそうだ。

一方、雇用の回復が続き、インフレが予想以上のペースで進むなら、いずれかの時点で金融緩和継続期待よりもインフレ懸念が上回り、早期利上げ観測が一段と強まる可能性が極めて高い。その際には、緩和継続期待が投機的な買いを呼び込み、必要以上に相場を押し上げていた分、株価が急落することになるとみておいたほうがよいだろう。

パウエルFRB議長再任で状況は変わるのか

さて、ジョー・バイデン大統領は22日、来年2月に切れるFRB議長職について、パウエル議長を再指名する方針を明らかにした。市場では、もう1人の有力候補だったラエル・ブレイナード理事が指名された場合は、政策がよりハト派的にシフトするとの期待があっただけに、発表を受けて長期金利が上昇。ドル高が進むなど、タカ派的な反応を示している。

もっとも、誰が次期議長に指名されたとしても、今後の政策方針に大きな違いが出ることはないと考えてよいだろう。FOMCは、あくまでも足元のデータに基づいて金融政策を決定するところであり、議長の個人的な考え方や主義主張が政策方針に大きく反映されるものではないということだ。

雇用や物価動向が比較的落ち着いている状況下なら、議長のリーダーシップが全体の方針に大きく影響することもありえるが、今のようにインフレ圧力が急速に高まるなど、経済環境が大きく変化しているときには、誰が議長になったとしても取りうる政策の範囲は限られてくると思われる。この先インフレ圧力が一段と強まるなら、遅かれ早かれ早期利上げに踏み込まざるをえなくなるだろう。

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